研究課題
MEG実験に関しては、取得した全データを用いたμ→eγ事象探索解析を進めた。陽電子飛跡再構成法の改善、陽電子飛行中消滅による背景ガンマ線の低減のための新アルゴリズムの開発など幾つかの解析手法の改良に取り組むと共に、平成24年、25年の新データ取得中に起こったミュー粒子停止ターゲットの予期せぬ変形に対する対処を行った。これらの課題への取り組みにより予定より遅れたものの、解析手法の最終チェックの後平成27年12月にブラインド領域を開け最終解析を行った。残念ながらμ→eγ事象の有意な兆候は見つからなかったが、以前の実験に比べ約30倍厳しい4.2×10^<-13>という崩壊分岐比上限値(90% C. L.)を得た。これによりμ→eγ事象の存在を予想する超対称大統一理論など有力な新しい物理に対してこれまでに無い厳しい制限を与えることとなった。このMEG実験の最終解析結果は国際会議(La Thuile 2016)で森が発表し、論文もまもなく公開予定である。(この結果についてはプレスリリースを出して記者会見を実施した。)並行して、探索感度を一桁向上したアップグレード実験MEG IIの準備も行った。本年度は昨年度までに開発が終了した各測定器の建設が精力的に進められた。液体キセノンガンマ線検出器については、重要な技術革新により性能が向上した新型光センサー(VUV-MPPC)を導入するため平成26年度に予定されていた研究の一部を平成27年度に繰り越して実施したが、技術革新導入後の光センサーの生産は順調に行われ、全数性能試験によりほぼ全てのセンサーが期待通りの性能を有することを確認した。光電子増倍管の再配置のための支持構造、冷凍機の増強など周辺装置の準備も順調に進めて、検出器への組み込み作業の準備が整った。陽電子タイミングカウンターについては、カウンターユニットの量産を開始し、平成27年秋には全体の1/4にあたる126個のカウンターユニットで構成される検出器の一部が完成し、これをスペクトロメータ電磁石COBRAに組み込んで、実際のミュー粒子ビームを用いた実地試験を行った。PSIグループが担当する新しい読出し電子回路に幾つかの問題が見つかったため十分な性能を実証することはできなかったが、他の実験装置とのメカニカルな整合性も含め、検出器の正常動作を確認することができた。新型陽電子飛跡検出器については、イタリアグループが中心となって建設が進められている。チャンバーガスシステム、ターゲットシステムを組み込んで一部ワイヤーが張られたモックアップ検出器を製作して、スペクトロメータ電磁石への組み込み試験を行った。同時に実機ワイヤー張りも開始した。ワイヤーの一部が切れるトラブルがあったが、すぐさま原因を突き止めワイヤー張り再開に向け準備を進めている。MEG II実験の感度をさらに高めるために日本グループが新たに提案した輻射崩壊陽電子検出器については、詳細設計の最適化後、下流側実機が完成し、性能動作試験を終えている。
2: おおむね順調に進展している
MEG実験で取得した全データの解析は、幾つかの解析手法の改良や予期せぬミュー粒子停止ターゲットの変形の問題への対処のために遅れたものの、目標とする探索感度を達成し、平成27年12月にブラインド領域を開けて最終解析を行った。残念ながらμ→eγ事象の有意な兆候は見つからなかったが、以前の実験に比べ約30倍厳しい4.2×10^<-13>という崩壊分岐比上限値(90% C. L.)を得ることができた。これは素粒子の崩壊分岐比として史上最も精度の高い測定となっている。一方MEG II実験については、技術革新により性能が向上した液体キセノン検出器用光センサーを採用するため平成26年度に予定されていた研究の一部を平成27年度に繰り越すことになったが、その後各検出器の建設は順調に進み、平成28年中に各測定器のコミッショニングを開始する予定である。平成29年度には実験全体のエンジニアリング運転を実施、その後本格的な物理データ収集に移行する予定であり、全体計画としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度前半は、読出し電子回路の問題点を解決した後、あらためて陽電子タイミングカウンターの実機性能試験を実際のミュー粒子ビームを使って実施する。その後夏には、改良した磁場測定装置を用いたスペクトロメータ電磁石の磁場マッピングを行い、並行して各測定器のコミッショニングを開始する。全測定器による総合的エンジニアリング運転は、PSIグループが担当する読出し電子回路の完成を待って、平成29年度より開始する予定である。それまでに各測定器の較正と調整を進め、その後問題がなければ本格的な物理データ収集に移ることになる。目標の測定器性能が達成できれば、数ヶ月のデータ収集でMEG実験の探索感度を超え、新たなμ→eγ事象探索の結果が期待出来る。最終的な目標感度に到達するためには、加速器の稼働スケジュールやミュー粒子ビームラインの使用状況に依存するが、少なくとも3年間にわたるデータ取得が必要と考えられる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 7件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件) 備考 (3件)
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