研究課題
MEG実験で取得した全データを用いたμ→eγ事象の探索解析の最終結果を詳細な論文にまとめ、主要国際ジャーナル誌に公表した(Eur. Phys. J. C(2016)76 : 434)。μ→eγ事象の発見には至らなかったものの、その崩壊分岐比に4.2×10^<-13>(90%C. L.)というこれまでにない最も厳しい上限値を与えた。これは前実験(MEGA実験)の上限値を約30倍更新して、標準的な超対称大統一理論から自然に予想される領域に大きく切り込み、大統一理論を始めとする重要な新理論に対して非常に厳しい制限を与える結果となっている。また、MEG実験中の崩壊ミュー粒子の偏極度を測定した結果を取りまとめ、主要国際ジャーナル誌に公表した(Eur. Phys. J. C(2016) 76 : 223)。この測定により、μ→eγ事象探索における主要な背景事象であるミュー粒子輻射崩壊の正確な見積もりが可能となり、またより高精度でμ→eγ崩壊分岐比の値を得ることができるようになった。探索感度をMEGよりさらに一桁向上させたアップグレード実験MEG IIは、本実験開始に向けた準備が急ピッチで行われた。液体キセノン検出器については、新型半導体光センサー(VUV-MPPC)の実機用素子約4000個の量産、全数試験が行われ、検出器クライオスタットへの搭載が完了した。検出器内部のケーブリングやアセンブリ作業も進められた。陽電子タイミングカウンターについては、2016年6月に実機検出器の一部(全体の1/4)をビームラインに設置して、実際のMEG II実験の環境下でミュー粒子ビームを使った測定を行った。測定には前年度の問題を解決した改良型読み出しエレクトロニクスを用い、レーザー光による時間較正システムによる陽電子時間測定の較正も行った。これにより目標とする時間分解能(<35ps)を達成できることを確認した。並行して残りの実機建設も進め、下流側カウンターが完成し、現在上流側カウンターの製作を進めている。イタリアグループが中心となって建設を進めている新型陽電子飛跡検出器については、昨年発生したチェンパーワイヤーが切れる問題の調査のために建設作業が中断していたが、問題の原因を特定しワイヤー張りを再開した。また、バックグラウンドを同定して探索感度をさらに数倍向上させるための新検出器、輻射崩壊同定用カウンターについては、下流側実機を完成させて実際の実験環境下でミュー粒子ビームを用いて測定を行い、輻射崩壊背景ガンマ線を同定することに成功した。上流側については導入に向けての課題となっているミュー粒子ビームへの影響の調査、検出効率の改善などに取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
MEG実験で取得した全データを用いたμ→eγ事象探索解析を終了し、標準的な超対称大統一理論から自然に予想される領域に大きく切り込む探索感度を達成した。残念ながらμ→eγ事象の有意な兆候は見つからなかったが、以前の実験に比べ約30倍厳しい崩壊分岐比の上限値を得て、大統一理論を始めとする重要な新理論に対して非常に厳しい制限を与えることができた。MEG II実験に関しては、海外の共同研究グループが担当する新型陽電子飛跡検出器の建設が予期せぬ問題のため大きく遅れているが、その他の測定器の建設と立ち上げ作業はおおむね順調に進んでおり、2017年度中には陽電子飛跡検出器以外の測定器のコミッショニングを済ませ、ミュー粒子ビームを使った測定と測定器の較正を進めていく予定となっている。2018年は7月に加速器が稼働を再開次第、全測定器を用いた総合エンジニアリング運転を行い、それに引き続き本格的な物理データを取得する予定である。特に問題がなければ、本課題期間中に取得するデータによりMEG実験の最終到達感度を上回る感度でμ→eγ事象の探索が可能となり、大統一理論の兆候を探るための新たな挑戦を開始することになる。MEG II実験の最終感度に到達するためには、さらにその後3年間のデータ取得が必要となる。
2017年度前半は引き続きMEG II実験測定器の建設、立ち上げ作業を進める。陽電子飛跡検出器は昨年発生したワイヤーが切れる問題により建設が予定より遅れているため、飛跡検出器を除く全ての測定器および新型電子回路を用いたミュー粒子崩壊の測定と、検出器の較正を年度後半に行う。それに向けて各検出器のコミッショニングを着実に進めていく。液体キセノンガンマ線測定器は測定器内部のアセンブリ作業が終了次第、測定器をビームラインに設置、その後キセノンの液化、純化作業などの立ち上げ作業を行った後に運転を開始する。陽電子タイミングカウンターは上流側カウンターの製作を進めており、今年8月には陽電子スベクトロメータ電磁石内への設置を開始する。その後秋から、飛跡検出器を除く全ての測定器および新型電子回路を用いたミュー粒子崩壊の測定と、検出器の較正を行う。2018年の加速器の稼働再開は7月に予定されており、加速器の運転が再開され次第、全測定器を用いた総合エンジニアリング運転を開始する。順調に行けば本格的に物理データを取得する。2~3ヶ月のデータ取得でMEG実験の最終到達感度を上回り、その後はμ→eγ事象の発見に向けて測定器の調整とデータ解析に集中する。目標とする最終探索感度に到達するためには、さらに3年間のデータ取得が必要となる見込みである。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 6件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 13件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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