研究課題/領域番号 |
26000004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 俊則 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授
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研究期間 (年度) |
2014 – 2018
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キーワード | 国際研究者交流 / スイス : イタリア : 米国 : ロシア / ミュー粒子 / 超対称性 / 大統一理論 / PSI / 液体キセノン / 加速器 |
研究実績の概要 |
レプトンフレーバーを破るミュー粒子稀崩壊μ→eγを世界最高感度で探索するMEG II実験の開始に向けた準備を精力的に進めた。 MEG実験に比べ大幅に性能を改善した各検出器は、イタリアで製作中の陽電子飛跡検出器を除いてすべて建設が終了し、コミッショニングを開始した。2017年末にはミュー粒子ビーム試験を行い、読み出しチャンネル数が限定された状態ではあったが、各検出器の性能評価、問題点の洗い出しに必要な各種データを取得した。 性能改善の要である約4000個の新型光センサー(VUV-MPPC)を搭載した液体キセノン検出器は、ビームラインに設置して、立ち上げ作業を開始した。検出器に液体キセノンを充填後、キセノンの純化、光センサーの較正、ノイズ対策等、検出器の本格運転に向けた調整を行い、ミュー粒子ビーム試験では信号ガンマ線のエネルギーに近い50MeV程度の輻射崩壊ガンマ線の検出に成功した。陽電子タイミングカウンターについては、計512個の高速シンチレーションカウンターからなる検出器モジュールが上流下流とも完成し、スペクトロメータマグネットへの設置を行った。ミュー粒子ビーム試験で期待通りの30ps台の時間分解能が確認され、さらにレーザー較正装置を使った性能試験により高い安定性を有していることがわかった。探索感度のさらなる向上を目指して新たに設計・製作した輻射崩壊同定用カウンターは、下流側検出器をスペクトロメータマグネット内に設置して、液体キセノン検出器で検出された輻射崩壊ガンマ線に付随する低運動量陽電子が実際に検出できることを実証した。上流側検出器については追加導入に向け、ミューオンビームへの影響や検出器の放射線耐性の調査、検出効率の改善といった研究開発を進めた。イタリアグループが建設を進めている陽電子飛跡検出器は、アセンブリ作業中にチェンバーワイヤーが切れたため予定より遅れたが、2018年5月には完成した検出器をPSIに輸送して立ち上げ作業を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MEG実験の全データを解析して世界最高感度でμ→eγ崩壊事象を探索するという、本研究の目標の1つは既に達成されている。期待通りの実験感度が得られており、μ→eγ崩壊事象発見には至らなかったが、標準的な大統一理論模型など主要な新物理のモデルに対してこれまでに無い厳しい制限を課すものであり、世界の素粒子物理研究の動向に大きなインパクトを与えた。 もう一つの目標であるMEG II実験については、新型データ収集回路(スイスグループ担当)、陽電子飛跡検出器(イタリアグループ担当)の開発・製作が遅れたため全体計画に遅れが生じたが、その間、その他の検出器の準備を効率的に進め、ほぼ予定通りに建設を完了して、実際にミュー粒子ビームを使った試験においてその性能を実証することができた。さらに、ノイズ対策のためのシールドケーブルの導入、効率的なデータ解析のためのストレージシステムの追加のために追加交付を受けるなどして、実験感度のさらなる改良、早期の実験開始に向けた取り組みも行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年5月には陽電子飛跡検出器が完成してPSIで立ち上げ作業を開始する予定である。一方、2017年度に既に完成して立ち上げ作業を行った液体キセノン検出器、陽電子タイミングカウンター、輻射崩壊同定カウンターについては、続けて放射線源とビームを用いて較正作業を行って本格運転に備える。2018年後半には、陽電子飛跡検出器を含む全ての検出器を用いて総合ミュー粒子ビーム試験(エンジニアリングラン)を開始する。分解能、安定性など検出器の性能評価、検出器間の相互較正などを行った後、準備が整い次第本格的なμ→eγ崩壊事象探索データの取得を開始する。 2~3ヶ月のデータ取得でMEG実験の最終到達感度を上回り、前人未踏の感度領域に突入する見込みである。その後は常に発見の可能性があるため、期を逃さぬよう測定器を最善の状態で運用して安定したデータ取得を続けると共に、感度をより上げるため解析アルゴリズムにさらなる改良を加えていく。加速器の稼働スケジュールや同じビームエリアを使用する他の実験グループの動向に依存するが、約3年間のデータ取得で目標感度に到達することを目指す。
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