研究課題/領域番号 |
26000004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 俊則 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授
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研究期間 (年度) |
2014 – 2019
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キーワード | 国際研究者交流 / スイス : イタリア : 米国 : ロシア / ミュー粒子 / 超対称性 / 大統一理論 / PSI / 液体キセノン / 加速器 |
研究実績の概要 |
レプトンフレーバーを破るミュー粒子稀崩壊μ→eγを世界最高感度で探索するMEG II実験の開始に向けた準備を精力的に進めた。 大幅に性能を改善するMEG II検出器の中で、唯一未完成であった新しい陽電子ドリフトチェンバー(イタリアグループ担当)が完成し、2018年7月末に組み立てが行われたイタリア・ピサからPSIに移送された。2018年末にはすべての検出器を用いたミューオンビーム試験が行われた。読み出しエレキの製作(スイスグループ担当)の遅れにより読み出しチャンネル数が限定された状態ではあったが、各検出器の性能評価、問題点の洗い出しに必要な各種データを取得した。 液体キセノンガンマ線検出器については、キセノンの純化、光センサーの較正、ノイズ対策など、検出器の本格運転に向けた準備が行われた。専用のCockcroft-Walton陽子加速器により生成したガンマ線を用いた試験が行われ、単色ガンマ線(17.6, 14.6MeV)のエネルギー分布を測定した。また2018年末のミューオンビーム試験では、主要な背景ガンマ線であるミューオン輻射崩壊ガンマ線のエネルギー分布を測定した。 陽電子タイミングカウンターについては、既に2017年のミューオンビーム試験において期待通りの性能(30ps台の時間分解能)を有することが確認されているが、2018年は、懸念されている放射線損傷による性能悪化の問題を解決するための冷却装置の導入が進められた。 探索感度のさらなる向上を目指し日本グループが提案した輻射崩壊同定用カウンターについては、既に基本動作確認が済んでいる下流側検出器の性能評価試験を継続して行った。また上流側検出器の追加導入に向け、ミューオンビームへの影響や検出器の放射線耐性の調査、検出効率の改善といった研究開発も進めている。 ドリフトチェンバーについては、MEG II実験で想定される強度のミューオンビームを用いて動作試験、混合ガスの最適化などが行われ、ミューオン崩壊からの陽電子の飛跡を観測した。現在、内側レイヤーの動作が不安定で適正電圧を印加できない問題があり、今年前半の加速器シャットダウン期間中に原因調査と対処が行われる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MEG実験の全データを解析して世界最高感度でμ→eγ崩壊事象を探索するという、本研究の目標の1つは既に達成されている。期待通りの実験感度が得られており、μ→eγ崩壊事象発見には至らなかったが、標準的な大統一理論模型など主要な新物理のモデルに対してこれまでに無い厳しい制限を課すものであり、世界の素粒子物理研究の動向に大きなインパクトを与えた。 もう一つの目標であるMEG II実験については、陽電子飛跡検出器(イタリアグループ担当)の開発・製作が遅れたため全体計画に遅れが生じたが、その間、その他の検出器の準備を効率的に進める一方、さらにノイズ対策のためのシールドケーブルの導入、効率的なデータ解析のためのストレージシステムの追加のために追加交付を受けるなどして、実験感度のさらなる改良、早期の実験開始に向けた取り組みも行われた。スイスグループが担当する新型読み出しエレキのノイズレベルが予想以上に高いことが判明し、読み出しエレキの量産が予定より遅れているが、2019年には全検出器を用いたエンジニアリング運転を実施する予定であり、本実験に向けた準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、陽電子飛跡検出器の内側レイヤーの動作が不安定で適正電圧を印加できない問題があり、2019年前半の加速器シャットダウン期間中に原因調査と対処が行われる予定である。ノイズ問題など残された幾つかの課題を解決し、実験で使用する読み出しエレキの量産が予定通り進めば、2019年末に全検出器を用いたエンジニアリング運転を開始できる見込みである。ここでは、検出器間の相互較正、分解能、安定性など詳細な検出器性能評価を行う予定である。 準備が整い次第、本格的な物理データの取得を開始することを目指す。2~3ヶ月のデータ取得でMEG実験の最終到達感度を上回り、前人未踏の感度領域に突入する見込みである。その後は常に発見の可能性があるため、期を逃さぬよう測定器を最善の状態で運用して安定したデータ取得を続けると共に、感度をより上げるため解析アルゴリズムにさらなる改良を加えていく。加速器の稼働スケジュールや同じビームエリアを使用する他の実験グループの動向に依存するが、約3年間のデータ取得で目標感度に到達することを目指す。
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