研究課題
平成29年度は、サファイア鏡を完成させ、これをKAGRAに装着する作業が進められた。これまでにトンネル部分の湧水対策および中央・両端エリアのクリーン化は完了しており、高性能ミラーを扱える環境が整っていた。まず、本物のサファイア鏡を吊る前に、サファイアのダミーを低温懸架系に吊して、強度試験及び冷却テストが実行された。サファイア鏡はサファイアワイヤーで吊られるが、その接触点には「耳」と呼ばれるサファイア製のプリズムが接着され、それと懸架系上段に取り付けられたサファイア製の板バネの間にサファイアワイヤーがかけられた。この作業は、追加配分で購入したクリーン服を利用して行っており、クリーン作業に寄与している。その懸架状態で冷却テストが行われ、予想どおりもしくはそれ以上の冷却スピードが得られたことは特筆すべきことである。これは今後の低温と常温を繰り返して行われるコミッショニング期間を短縮するのに大きく寄与することになる。また低温懸架系の上段となる多段防振系も2基が完成した。年度末には、この2つの装置(低温懸架系および多段防振系)を合体させたシステムに、本物のサファイア鏡が吊るされ、KAGRA防振・懸架系がついに組み上がった。現在は、この高さ14mにもおよぶ巨大な低温鏡システムの動作試験が行われており、マイケルソン干渉計を構成した状態での低温運転が開始された。一方、KAGRAに装着されるサファイア鏡4個についても最終的な製作が進められた。残念ながら1個については研磨が終了したところで年度末となったが、3つのサファイア鏡は仕様通りに仕上がったことが確認されており(LIGOの計測ラボに持ち込んで測定した)、KAGRAがそのパイオニアとなっている低温レーザー干渉計の時代が始まったことになる。残る1個も平成30年夏にはコーティング作業が終わってサファイア鏡となり、これら4個の高性能サファイア鏡は順次KAGRAに装着されていき、平成30年度末までにはリサイクリング機能を組み込んだ低温レーザー干渉計が誕生する予定である。以上の干渉計構築作業と並行して、国際共同観測ネットワーク参加の取り組みも進められた。まず、平成29年11月に開催した国際ワークショップでは、LIGOやVirgoから現場作業を行っている研究者を多数招聘し、KAGRAのコミッショニングについて意見交換した。また、平成30年3月に行われたLIGOとVirgoのコラボレーション会議に数名を派遣し、次回の国際共同観測への参加表明を行った。すでに先方からは、ネットワーク参加のための具体的な作業指示が来ており、これらを準備して、KAGRAの観測体制を整えていくことになる。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度はサファイア鏡の常温でのテストとその冷却、その後の年度内の本格運転が予定されていた。サファイア鏡については、KAGRA直近の富山大学にそれを扱うためのクリーンルームが設置され、そこでサファイアワイヤー固定用のサファイア部品の接着が行われた。その後、最初のサファイア鏡がKAGRAサイトに搬入されて、無事に装着された。この状態での低温運転についても順調に準備が進んでおり、低温レーザー干渉計が稼働開始している。以上のように、若干の遅れはあるものの本研究は順調に進んでいると判断できる。
重力波望遠鏡KAGRAの共同研究者は既に国内外合わせて300人を超える規模になっている。特に海外からの若手研究者(学生を含む)が増えており、また、本研究により雇用される外国人ポスドクも増えている。これは国際研究拠点をめざすKAGRAとしてはとても良い状態であり、今後も活発な若手研究者を惹きつけることが大事だと考えている。本研究では最先端研究基盤事業及び概算要求による施設整備費により整備された装置を出発点とし、その迅速な運転開始及び標準量子限界をも超える高度化のための先進的技術を開発することを目指している。それらの技術を備え付けた最先端装置のコミッショニングとその安定動作を迅速に行い、できるだけ早い時期に重力波の観測を開始することが目標である。この目標を本研究期間内に確実に達成するため、いくつかのマイル・ストーンを設定している。まず、常温の鏡を用いたシンプルな干渉計を動作させ、3kmという大型レーザー干渉計を動作させるというマイルストーンについては平成27年度中に達成することができた。この経験をもとにシステムに改良を加えることは平成28年度に実現した。今後、この巨大なレーザー干渉計に、光のリサイクリングシステム、干渉信号中のノイズ除去を加え、更には鏡も極低温で動作させて、重力波観測を行うことを目標としている。これらの技術を盛り込んだ干渉計の動作を平成30年度中に実現したいと考えている。その後にLIGOやVirgoとの国際共同観測に参加することを目指している。
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