研究課題/領域番号 |
26000006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 克哉 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70283736)
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研究分担者 |
松岡 岳洋 岐阜大学, 工学部, 助教 (10403122)
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研究期間 (年度) |
2014-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 高圧力 / 超伝導材料・素子 / 金属物理 / 磁性 / 軽元素 / 高温超伝導 / 金属水素 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
項目A「水素をはじめとしたシンプルなシステムの超高圧物性」 ①高温高圧下における水素の金属境界の探索をより高圧低温に延長し、105GPaまでの流体金属境界を検出した。 ②分子外縁が塩素に置換したヘキサクロロベンゼン(C_6Cl_6)を対象に超高圧下での電気抵抗測定を行った。その結果、80GPa以上の圧力印加によって導電性が向上し、金属化に向かうことが明らかになった。 ③遺伝的アルゴリズムを用いて固体水素金属相の結晶構造探索を行い、400万気圧以上で出現する斜方晶構造を新たに予測し、超伝導転移温度は最大350Kに到達した。アルゴンは600万気圧で金属化し、更なる加圧によって超伝導転移温度が希ガスで最高値となる12K(2600万気圧)まで上昇することを理論的に明らかにした。 項目B「超高圧合成による機能性物質のフロンティア」 ①高結晶性グラファイトをFIBによって微細加工し、ほぼ完全なグラフェンドメインと同等と思われるサイズでの測定を行ったところ、25GPa以上50K以下でこれまでと異なる低抵抗な領域が存在することを発見した。 項目C「革新的な高圧実験技術および理論計算手法の開拓」 ①X線、電気抵抗、及びラマン分光の同時計測用に、ダイヤモンド粉末を使用したガスケットを開発し、高水素圧力下の金属水素化物合成に適用した。試料のX線回折が水素化した金属ガスケットからのシグナルに埋もれることが軽減できた。 ②結晶構造探索手法を新たに考案し、ポテンシャルエネルギー面トレッキングと名付けた。これを第一原理電子状態計算手法と組み合わせて、テラパスカル領域の炭素に適用させたところ、ダイヤモンド構造から7つの結晶構造への相転移をシミュレーションによって得た。また、自己相互作用補正局所密度
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初に設定した研究項目A, B, Cそれぞれにおいていくつかの小項目を設定して研究を行った。上記の研究経過に示したとおりに、全ての小項目においてはほぼ計画どおりに進展している。 しかし、上記に設定した項目以外において大きく進展した研究がある。硫化水素(H2S)を出発物質とした超伝導探査を新たに推進した。これは、昨年末に研究協力者のEremets氏が、H2Sを出発物質として150GPa以上の加圧により、190Kという高温で超伝導が発現することを報告し、世界的にも非常に注目されている。この再現実験をいち早くEremets氏と協力して行うことにした。この物質は項目A①の範疇であるが、研究組織として大きく注力し、以下の通り進捗している。我々がEremets氏と独立して準備したH2Sを加圧した試料においては、試料の分解が起こったために超伝導の観測には至らなかったが、Eremets氏から提供を受けた試料においては、報告通りの超伝導をSPring-8の冷凍機で確認し、同時にSPring-8の放射光X線により結晶構造データを取得することに成功した。引き続き我々の試料による超伝導の測定と理論予測との比較を進めている。 以上のことから、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
項目A「水素をはじめとしたシンプルなシステムの超高圧物性」 ・水素の加圧における問題とその解決 水素は高い活性・拡散性を持つ物質であり、高圧下では試料室周辺の金属と反応して水素化物を生成し、ダイヤモンドアンビル内に浸透して水素脆性を起こしてしまう。そのため、試料室まわりにNaCl壁を作製し、アンビルにはチタンコーティングを施して水素侵入の問題を緩和した。 今後は水素の金属化を直接的に測定するために電極を導入する予定であるが、試料室内に確実に水素封入するためには電気的な絶縁をとるための層やアンビルへのコーティングの材料などをさらに最適化することが必要となる。また、加圧やレーザー加熱中に電極に使用している金属が水素化する可能性があるが、SPring-8において放射光X線回折実験を組み合わせることで水素化の有無を詳細に確認しながら進める。 ・水素化物の構造の同定における精度 結晶構造がX線回折測定とDFT計算から既知とされているユウロピウム水素化物(EuH2)について、Raman散乱測定を試したところ、双方で提唱する結晶構造の空間群が一致しないことが明らかとなった。これはX線回折では水素原子からの反射が、周囲の原子番号の大きいイオンによって隠されるためであると考えられる。今後の水素関連物質の研究においてはこの点に留意して, 結晶構造については高分解能のRaman散乱測定と組み合わせて注意深い実験を行うことが必要である。 項目C「革新的な高圧実験技術および理論計算手法の開拓」 ・格子振動(超伝導性)の予測の精度 調和近似の範囲で物質の格子振動特性や超伝導性を調べたが、例えば水素や水素化物ではフォノンの非調和効果がとても大きく、それが結晶構造安定性や超伝導性に大きく影響を及ぼしているため、調和近似では精度の高い予測を十分に行えないという問題がある。これを解決するために、非調和性を考慮できる自己無撞着調和近似法を使った計算に今後取り組む計画である。
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