研究課題/領域番号 |
26000007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中谷 和彦 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (70237303)
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研究分担者 |
堂野 主税 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (60420395)
武井 史恵 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (30252711)
村田 亜沙子 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50557121)
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研究期間 (年度) |
2014-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | トリヌクレオチドリピート / 小分子 / プローブ / 伸長抑制 / RNA機能調節 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が開発したトリヌクレオチドリピート結合分子NA、NCDを手掛かり(プローブ)として、リピート伸長を化学的に調節するという視点から分子機構を再検討し、4つの研究項目、1)リピート結合分子の性能向上と創製、2)結合分子のリピート不安定化誘導と分子機構の解明・短縮分子探索、3)結合分子によるToxic RNAの捕捉、4)RAN Translationの分子機構解明と低分子による調節原理導出、を通じて、トリヌクレオチドリピート伸長とリピートRNAの機能を低分子で調節する化学を拓き、トリヌクレオチドリピート病の新しい治療法開発に資する創薬リード化合物の創製を目指す。平成26年度は、研究項目1)に関して、1-1)NCDの細胞毒性低減を目指した6-amino-furo[2,3-b]pyridine環をもつ誘導体合成、1-2)、1-3) d(CTG)nとr(CUG)n結合分子の創製を目指した8-amino-pyrrolo[3,2-h]quinoline、および2-amino-1,10-phenanthrolineを持つ化合物群の合成を検討し、1-4)NA誘導体のRNA結合性能の向上を目指した構造活性相関研究を進めた。また、研究項目2)に関しては、2-1)結合分子のリピート結合特性・親和性の定量評価法として、リピート数の異なる(CAG)n、(CGG)n、(CTG)n等を表面プラズモン共鳴(SPR)センサーに固定化し、系統的に定量評価する方法を確立した。また、2-2)結合分子の細胞内挙動の観察では、リピート結合分子NAをNBDで蛍光標識したプローブNBD-NAを合成し、NAが核内に移行していることを確かめた。さらに、2-3)NAによるCAGリピート不安定化誘導では、細胞モデル並びにハンチントン病患者由来の細胞、さらにハンチントン病モデルマウスの線条体において調べ、リピート長が短縮される効果を確認した。そして、2-4)d(CTG)nリピート短縮を誘導する分子の創製として、リピート結合分子によりフリップアウトする塩基のデアミネーションを加速する分子の創製に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は主に分子合成Gの研究からスタートしたが、予定した化合物群の合成をほぼ進めることが出来た。リピートへの結合解析の結果から、ピリミジンミスマッチを形成するCCG, CTGへの結合が、プリン-プリンミスマッチを形成するCAG, CGGに比べて結合し易いことを見出した。 先に開発しているNA, NCDなどの分子を用いた細胞内挙動の評価、細胞系でのリピート伸長、短縮効果も確認出来る等、最初の一年としては計画通りの進行状況であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1-1) NCDの細胞毒性低減 NCDの細胞毒性が、2-アミノナフチリジンとグアニンの強固な水素結合とナフチリジン環のスタッキング能の高さに起因するという仮説を立て、分子サイズを縮小し、かつ、ピリジン環をフラン環とすることで、水素結合強度を低下させた6-amino-furo[2,3-b]pyridine環に置換することを計画した(下記スキーム参照)。購入したfuro[2,3-b]pyridineをN-オキシドを経由して2位クロロ体に導き、アミノ化により目的物へ誘導する合成スキームを検討した。オキシ塩化リンとの反応により得られたクロロ体を解析したところ、望む2位置換体ではなく、4位置換体であることが判明した。非常にわずかであるが2位置換体は生成したが、次の合成に用いる程の量を確保出来ないことが判った。現在合成ルートを変更してさらに検討するとともに、NCDやその二量体であるNCTを細胞毒性が顕著に現れない濃度条件で、細胞内でのリピート伸長、短縮効果を並行して調べる予定である。 1-2)、1-3) d(CTG)nとr(CUG)n結合分子の創製 T(U)認識を指向して設計した分子群のうち、塩基認識部位として2-amino-1,10-phenanthrolineをもつ誘導体が、d(CTG)nおよびr(CUG)nに対して結合することを見出した。これらがどの様な様式で結合するかを明らかにするため、コールドスプレーイオン化質量分析法(CSI-MS)による複合体の解析を試みたが、RNAリピートを用いる質量分析条件の最適化は非常に困難であった。マカオ大学のJiang教授とBai助教との共同研究により、2-amino-1,10-phenanthroline誘導体とr(CUG)nの複合体の質量分析に成功した。今後は彼らとの共同研究をより密にして、化合物の評価を進めて行く予定である。2-amino-1,10-phenanthroline誘導体のd(CTG)n、r(CUG)nに対する結合評価から(Kd : 4μM)、結合親和性の向上と、ピリミジン塩基(T, UとC)の識別、短鎖長鎖リピートの識別などの点において、選択性を向上させる必要性が示唆された。また、リピート結合分子には、健常者と発症患者を決定するリピートの繰り返し数の多寡を識別することが求められる。リピート数に対する結合選択性の評価を進めるとともに、標的リピート配列に対して協同的な結合促進が期待される、塩基認識部位をオリゴマー化した結合分子の合成を検討している。 1-4) NA誘導体のRNA結合性能の向上 NAのr(CAG)リピートへの結合能を向上させるため、構造活性相関を調べたところ、スタッキング能を強化させることにより結合の熱力学特性が変わることを見出した。このため、より多くの誘導体の合成について検討を進めている。スタッキングの関与は核酸と小分子の相互作用では当然予測されたことではあるが、低分子の結合に対しての定量的な構造活性相関データが不足しており、今後の研究の鍵となる結合パラメータとして、精密に解析する予定である。 2-1) 結合分子のリピート結合特性・親和性の定量評価法開発SPRによるシングルサイクルキネティクス法の有効性を確認しており、結合分子のリピート長依存的結合について、より詳細なデータを蓄積、解析を進めている。また、リピート配列を固定化したセンサーを用いたライブラリー探索への応用について、研究を開始出来る準備が整った。 2-4) d(CTG)nリピート短縮を誘導する分子の創製複数のリピート結合分子にアルキルリンカーを介してチオール基を導入した新しい分子を合成し、HPLCを用いてリピート配列との化学反応を解析した。現在の化合物では変換効率が低く定量的な解析が困難であった。そこで、全てのリピート配列を一度に解析できる次世代シーケンサーによる『deep sequencing』を用いた新たな評価系の構築を検討中である。同時に、変換効率を向上させるために、チオール基以外の求核性置換基を持つリピート結合分子の合成を検討する。
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