研究実績の概要 |
本年度の特筆すべき成果は、酸素耐性ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼのモデル錯体を用いて酸素結合中間体の単離とそのX線構造解析に成功したことである。ヒドロゲナーゼは、水素から電子を取り出す天然の酵素であり、活性中心にニッケルと鉄を持つ二核構造から成っている。このニッケル・鉄ヒドロゲナーゼは標準型と酸素耐性型に分類される。標準型ヒドロゲナーゼは酸素存在下で水素酸化活性能を失うのに対し、酸素耐性型ヒドロゲナーゼは酸素存在下でも水素活性化能を保持することが可能である。その酸素耐性メカニズムはこれまで不明な点が多かったが、最近、酸素を水に還元することによって、活性中心を酸化から保護していることが分かってきている。しかし、その酸素結合種の構造や性質は明らかになっていなかった。本研究では、ニッケルと鉄を用いた酸素耐性ヒドロゲナーゼモデル錯体を新規に開発し、世界で初めて鉄に酸素がサイドオン型で結合した中間体の単離とX線構造解析に成功した。さらに、その酸素還元メカニズムを明らかにした。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 724(表紙に採択)とプレスリリース(平成27年10月29日、「非貴金属分子触媒で水素の活性化に続く「酸素の活性化」に成功-白金フリー燃料電池の開発に応用-」)によって発表した(NHK、テレビ西日本、FBS福岡放送、朝日新聞、日経新聞で報道された)。さらに、光合成モデル触媒の開発を行った。光合成は光エネルギーを利用して水から電子を取り出すことができる究極の環境調和型酵素である。しかし、その水の酸化メカニズムは未だ明らかになっていない。本研究では、鉄錯体や酸化イリジウム触媒を用いて水の酸化メカニズムについて検討を行った(Chem. Lett. 2015, 44, 1263、Chem. Commun. 2015, 51, 12589)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、小江(研究代表者、研究の総括)、日比野教授(研究分担者、電気化学測定)、庄村准教授(酵素の結晶化)、松本准教授(研究分担者、電極触媒調整)との共同研究により、ヒドロゲナーゼとそのモデル錯体の研究、光合成モデル錯体の研究、ヒドロゲナーゼモデル錯体を用いた燃料電池の研究を行い、多数の論文を発表した。ヒドロゲナーゼとそのモデル錯体の研究については、小江、庄村准教授、および松本准教授の共同で行い、ヒドロゲナーゼの結晶化やヒドロゲナーゼモデル錯体の反応性について詳細に検討した(J. Organomet. Chem. 2015, 796, 73、Acta Crystallogr. Sect. F Struct. Biol. Commun. 2015, F71, 96、Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 724、Chem. Lett. 2016, 45, 197、Acta Crystallogr. Sect. F Struct. Biol. Commun. 2016, F72, 52)。また、光合成モデル錯体の研究、ヒドロゲナーゼモデル錯体を用いた燃料電池の研究については、小江、日比野准教授、および松本准教授との共同で行い、光合成の水の酸化メカニズムの検討や新規ニッケル分子触媒を電極触媒に用いた分子燃料電池の開発を行った(Chem. Lett. 2015, 44, 1263、Chem. Commun. 2015, 51, 12589、Chem. Lett. 2016, 45, 72、Chem. Lett. 2016, 45, 137)。以上のように、研究代表者と研究分担者の専門知識・技術を相補的に連携することにより、本研究は順調に進展している。
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