研究実績の概要 |
本年度の主な研究実績は、(a)「燃料電池と太陽電池を融合する同一分子触媒の開発」、(b)「水素と一酸化炭素を燃料とする燃料電池の開発」、(c)「ヒドロゲナーゼの結晶構造解析による酸素耐性メカニズムの解明」、(d)「ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼモデル触媒による水素と酸素の活性化メカニズムの解明」であり、論文(aとbは表紙に採択)とプレスリリース(a、b、c)にて成果を発信した。特に(a)の業績により、本特別推進の研究課題「ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成」を達成し、本年度中に最終目標に到達した。以下に、(a)~(d)の成果についての具体的な内容を記述する。 ・研究テーマ(a) : ヒドロゲナーゼは水素から電子を取り出す酵素であり、光化学系IIは光エネルギーを利用して水から電子を取り出す酵素である。すなわち、ヒドロゲナーゼと光化学系IIは、それぞれ燃料電池と太陽電池のアノード触媒と同様の機能を有している。これらの酵素を範とし、人工的に分子レベルで酵素機能を再現することで、燃料電池と太陽電池を融合する同一分子触媒の開発に成功した。このように水素と水を両方酸化できる同一分子触媒はこれまでになく、エネルギー研究の分野において格段の発展と波及効果をもたらすことが期待できる。本成果は、プレスリリース(平成29年6月5日「燃料電池と太陽電池を融合する同一分子触媒の開発」)にて公表し、EurekAlert! AAASや日経新聞で取り上げられた。 ・研究テーマ(b) : 燃料電池の電極触媒である白金は、水素に含まれる極微量の一酸化炭素による被毒で触媒活性が著しく低下するため、水素と一酸化炭素の両方を酸化できる電極触媒の開発が必要とされている。本研究では、水素酸化酵素(ヒドロゲナーゼ)と一酸化炭素酸化酵素(一酸化炭素デヒドロゲナーゼ)の共通する活性中心構造を分子レベルで再現することで、これらの酵素の機能を融合した新しい分子触媒を開発した。この分子触媒を用いることにより、水素と一酸化炭素が50対50の比率の燃料でも燃料電池が駆動することを見出した。本成果は、プレスリリース(平成29年6月7日「水素と一酸化炭素を燃料とする燃料電池の開発」)にて公表し、EurekAlert! AAAS、AZoCleantech、DWV-Mitteilungen、西日本テレビ、朝日新聞、中日新聞、日経新聞、産経新聞、西日本新聞で取り上げられた(Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 9723、表紙に採択、Hot Paperに選出)。 ・研究テーマ(c) : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型ヒドロゲナーゼの酸素耐性メカニズムの解明は、生物化学、生物無機化学、触媒化学の分野において非常に重要な研究課題である。これまで本タイプのヒドロゲナーゼの酸素耐性メカニズは明らかとなっておらず、本研究による構造学的アプローチによって初めて明らかになった。本成果は、プレスリリース(平成29年9月1日「NAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼのレドックススイッチ機構の構造基盤の解明」)にて公表し、日経新聞で取り上げられた(Science 2017, 537, 928)。 ・研究テーマ(d) : 酸素耐性ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼは水素の酸化と酸素の還元の両方を触媒する酵素である。しかし、そのスイッチングのメカニズムは未だに明らかになっていない。本研究では、ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼのモデル錯体を用いて、熱力学的且つ速度論的研究によりスイッチングメカニズムを解明した。本成果は、水素と酸素の活性化触媒の分子設計指針となりうる重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下に記載するこれまでの研究成果を鑑みると、現在までの進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と言える。特に、本特別推進の研究課題「ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成」を最終年度の前年(今年度)までに達成することができたことが大きな理由である。 ・平成26年度の主な成果は、酵素燃料電池の開発である。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8895(表紙に採択)とプレスリリース(平成26年6月4日「燃料電池の白金電極を超える水素酵素「S-77」電極の開発に成功(白金の637倍の活性)」)によって公表した(NHK、RKB毎日放送、讀賣新聞、西日本新聞、日経新聞、毎日新聞、産経新聞、日刊工業新聞にて報道)。また、本酵素燃料電池について、JST newsの特集記事にて紹介された(2014年9月号、「天然酵素をまねて人工酵素を開発 : 自然界の力で優れた燃料電池の実用化を目指す」)。 ・平成27年度の主な成果は、鉄に酸素が結合した世界初の鉄・酸素錯体の合成である。本成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 724(表紙に採択)とプレスリリース(平成27年10月29日「非貴金属分子触媒で水素の活性化に続く「酸素の活性化」に成功-白金フリー燃料電池の開発に応用-」)によって発表した(NHK、テレビ西日本、FBS福岡放送、朝日新聞、日経新聞で報道された)。 ・平成28-29年度の主な成果は、「燃料電池と太陽電池を融合する同一分子触媒の開発」と「水素と一酸化炭素を燃料とする燃料電池の開発」である。特に前者の成果は、本特別推進の研究課題「ヒドロゲナーゼと光合成の融合によるエネルギー変換サイクルの創成」の達成を意味している。本成果を、ChemCatChem 2017, 9, 4024(表紙に採択)とプレスリリース(平成29年6月5日「燃料電池と太陽電池を融合する同一分子触媒の開発」)によって発表した(EurekAlert! AAASで取り上げられ、日経新聞で報道された)。さらに後者の成果は、Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 9723(表紙に採択、Hot Paperに選出)とプレスリリース(平成29年6月7日「水素と一酸化炭素を燃料とする燃料電池の開発」)によって発表した(EurekAlert! AAAS、AZoCleantech、DWV-Mitteilungenで取り上げられ、西日本テレビ、朝日新聞、中日新聞、日経新聞、産経新聞、西日本新聞で報道された)。これらの成果について、文部科学省において、世界トップレベル研究拠点プログラム10周年記念講演会「日本の科学の未来に向けて」で、「エネルギー問題に貢献する科学」という表題で講演した。 以上の研究成果は、小江(研究代表者、研究の総括)、日比野教授(研究分担者、電気化学測定)、庄村准教授(酵素の結晶化)、松本准教授(研究分担者、電極触媒調整)との密接な連携により達成されたものであり、現在までの研究は非常に順調に進展している。
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