研究課題/領域番号 |
26000011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河田 聡 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30144439)
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研究分担者 |
野地 博行 東京大学, 工学系研究科, 教授 (00343111)
藤田 克昌 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (80362664)
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研究期間 (年度) |
2014-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞内分子イメージング / ラマン分光 / 表面増強ラマン散乱 / 超解像イメージング / 細胞内センシング / 機能性分子 / スペクトル解析 / 金属ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、細胞内分子イメージングのための「3次元・ナノ・分析・光学」顕微鏡を開発することを目的としており、昨年度には下記の4つの研究実績を達成した。 1、細胞内ナノ分析顕微鏡の開発 細胞内の分子検出、および局所環境を分析するために、ラマン分光画像計測、暗視野分光画像計測、蛍光画像計測を融合させたシステム構成を設計した。現在、設計案に従い装置の試作を進めている。金属ナノ粒子と光との相互作用を評価するための装置開発も行い、可視から紫外域での超短パルス光が金属表面で生じる非線形な光学効果の検出が可能となった。 2、金属ナノ粒子の作製 光学効果の増強に適した材料、形状をもつ金属ナノ粒子の作製に向け、球状、星状、シェル状、花びら状の形をもつ金属ナノ粒子を作製した。また、作製した金属ナノ粒子によるラマン散乱の増強効果を確認した。金属ナノ粒子の生体適合性を評価するため、エレクトロポレーションを用いた金属ナノ粒子の導入法の検討と細胞内でのラマン散乱増強効果の確認を行った。 3、機能性分子の探索 機能性分子として、pH、酵素活性、ATPの検出を可能とする分子の探索を行った。pHに関してはpMBA、酵素活性については5-プロモー4-クロロ-3-インドリルーβ-D-ガラクトビラノシド(X-gal)の評価を行い、それぞれ周囲のpHの変化、代謝物生成を増強ラマン散乱スペクトルにより確認できた。また、ATP計測に関してはATP合成酵素のεサブユニットの利用を検討している。 4、スペクトル分析・画像構築技術の開発 多次元でのスペクトル情報を解析するために主成分分析、クラスタリング、スペクトル間の相関をベースとする解析ソフトウェアの開発を行った。実際に細胞内を移動する金属ナノ粒子からの増強ラマン散乱スペクトルに主成分分析、相関解析を適用した結果、増強ラマン散乱は通常のラマン散乱計測に比べて多くの情報を与えること、増強ラマン散乱スペクトルからは分子の運動や細胞内環境を示す特徴的なラマン散乱ピークを抽出できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、研究の進展に大きな問題点は見えていないが、金属ナノ粒子によるラマン散乱の増強効果の向上、機能性分子の修飾の選択、計測条件の最適化については、より多くの基礎データ(粒子形状の把握、光学効果の増強度の見積もり、背景光の強さ、入射させるレーザー光波長に依存した特性変化)を得る必要があり、今後多くの時間と労力を費やす事になると考えている。このためには、計測条件(レーザー波長、照射方法)や試料条件(粒子形状、機能性分子、標的分子)を出来るだけ多くスクリーニングする計測装置の開発が必要となる。装置に必要とされる条件を研究者間で共有した上で、平成27年度前半に仕様を決定し、設計・試作を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在試作を進めている単一金属ナノ粒子を用いた顕微鏡の評価、改良を進めるとともに、細胞全体を観察可能な多粒子並列計測型の顕微鏡も開発する。細胞内部の微細構造の観察や環境マッピングには単一粒子が適するが、細胞全体に変化を生じるイベント(細胞分裂、細胞死等)や、薬剤に対する細胞応答の解析には、細胞の多数の点から並列にラマン散乱信号を取得する必要がある。多粒子並列計測は、細胞全体をレーザー光により照射して、複数ナノ粒子からのラマン散乱光を同時に分光計測する。約百の粒子からのラマン散乱光を分光するために、2台の低収差分光器を組み合わせた2次元分光光学系を新たに開発する。観察すべき部位を多粒子並列計測システムにより判断しておき、単一粒子計測システムでより詳細にその部位をイメージングするという相補的な使用により、非常に大きな空間的なダイナミックレンジをもつ分子イメージング法を実現できる。開発した顕微鏡システムと、下記の機能性ナノ粒子を用いて、細胞内のタンパク分析、特に、細胞内のタンパク質-生体分子相互作用(モータータンパク)、タンパク質-薬剤の結合の解析に応用する。 機能性ナノ粒子の開発については、環境センサーとなる分子を選択するために、主にラマン散乱活性が報告されているpHセンサー、酸化還元電位センサー、イオンセンサーを中心に引き続き検討する。同時に粒子形状、光学効果の増強度、背景光の強さ、入射させるレーザー光波長に依存した特性変化などについて、スクリーニングデバイスによるナノ粒子の評価を行う。そして評価をクリアした機能性ナノ粒子を用いた、細胞内構造と環境の同時イメージングを試みる。また、細胞内のタンパク質分析に向けて、増強ラマン散乱を用いたタンパク質機能分析の基礎技術の開発も行う。研究分担者である野地らに実績があるモータータンパクF1-ATPaseのキネティクスをラマン散乱で解析することを試みる。このタンパク質と細胞内分子との相互作用についての知見を多く蓄積しているため、この解析モデルを起点として、増強ラマン散乱を利用したタンパク質分析技術を確立していく。 解析技術の開発については、多粒子同時計測システムの構築に伴い、取得される重畳したスペクトルデータから、個々の粒子からのスペクトルを分離するソフトウェアを構築する。多粒子計測システムで取得した2次元分光画像と粒子座標データ、およびその時間変化の情報を元に、各粒子からのスペクトル形状を推定する。分離したスペクトルデータを3次元画像構築ソフトウェアに組み込み、多粒子同時計測システム用の観察像構築ソフトウェアを構築する。また機能性ナノ粒子のスクリーニング、および、細胞内タンパク質分析のためのスペクトル解析ソフトウェアの構築も行う。ここでは、主に、スペクトルの特徴抽出や多変量解析、および画像診断技術を組み合わせた新しい分析手法を開発する。
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