研究課題
本研究計画では、細胞内分子イメージングのための「3次元・ナノ・分析・光学」の顕微鏡開発を目的としており、昨年度には下記の4つの項目を達成した。1、機能性・高感度な金属ナノ粒子プローブの開発機能性金属ナノ粒子として、細胞内でのタンパク質-ATPの相互作用を利用したATPのセンシングのための機能性金属ナノ粒子の開発を行った。ガラス基盤上で単分散した機能性ナノ粒子からのATPの濃度依存的なSERS強度変化の検出に成功した。また、SERSをより高感度に検出するためにサテライト状に凝集させたナノ粒子プローブを開発した。細胞内に導入し、その空間情報及び細胞内環境・生体分子・薬剤の時間変化の観察に成功した。2、顕微鏡システムの自動化細胞内でのタンパク質相互作用や、薬剤の金属ナノ粒子への結合の検出、またその周囲の物理的、科学的環境を同時に検出するために、顕微鏡システムの自動化を行なった。ラマンイメージングと明視野像(または、位相差像・暗視野像・蛍光像)を自動で同時且つ経時的に観察できるように改良し、薬剤投与などによる時間応答する細胞の形態的な変化と細胞内部分子の変化を同時に観察することが可能になった。3、非線形分光の導入による分子選択性、空間分解能の向上前年度までに得られた金属ナノ粒子の非線形な分光特性を利用し、生体試料内の空間分解能の向上に成功した。生体組織の内部に金のナノ粒子を導入し、非線形な散乱光強度を検出することで、回折限界を超えた空間分解能での顕微観察が行えることを示した。また、金属ナノ粒子における高調波発生により微小紫外光源の形成に成功した。4、アプリケーション開発細胞内環境(pH)センシング機能を有する金属ナノ粒子プローブの開発を行い、細胞内の局所領域でのpHのセンシングを行なった。小胞輸送の過程、および細胞のアポトーシス過程において、pHの変化を数十ナノメートルの空間精度で測定することに成功した。また、細胞の内部でトルクを得て回転するナノ粒子の利用と観察方法を新たに見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
機能性金属ナノ粒子をプローブとして用いた細胞内ナノセンシングイメージング技術の基礎技術を開発し、本研究課題の目標達成に向け順調に研究が進んでいる。細胞内の生体分子の応答とそれに係わる物理化学的な条件の測定といった、複数の指標を同時に計測するプローブの開発も進んでおり、従来の細胞解析、分析では不可能であった、細胞内化学応答をナノスケールで可視化するというゴールが見えてきた。具体的には、細胞内pHのセンシングに成功した。また、in vitroにおいてATPセンサータンパク質を修飾した機能性ナノ粒子を用いたATPのセンシングに成功している。金属ナノ粒子の最適化、および高感度、高速イメージングのための装置開発も順調に進んでいる。それによって得られるデータは以前にも増して情報量の増加が見込まれるが、目的となる指標・標的分子を効率よく抽出するためのアルゴリズムの開発も終了している。開発してきた解析ソフトの計測装置への実装も進んでおり、膨大なスペクトルデータを利用して細胞内の分子応答を解析する準備も整っている。今後は、新たな機能性金属ナノ粒子の開発や、細胞内の薬剤検出方法などを検討し、さらなるアプリケーションの開発に取り組む。金属ナノ粒子による細胞内部での非線形散乱効果の検出にも成功し、細胞内局所計測の新たな技術開発に繋がる成果を得た。また、細胞の内部でトルクを得て回転するナノ粒子の利用と観察方法を新たに検討している。トルクを得る方法は流体や、光圧など、様々な方法を検討中であるが、エバネッセント場で誘起されるトルクに関しては金属ナノ構造の回転駆動が可能であるという計算結果を示した。これらを利用して細胞内の新たな物理量を計測することが可能になり、細胞内部の分子ダイナミクスの理解に大きく寄与すると考えられる。
細胞内タンパク分析イメージング技術の確立を試みる。これまでに得られた成果に踏まえ、細胞内タンパク分析イメージング技術の基盤技術を確立する。特に、以下のアプリケーション開発を通じて、様々な応用測定に耐えうるよう、ハードウェアを調整し、分析・可視化可能なソフトウェアを洗練させる。機能性ナノ粒子プローブについても、今後は単分散した機能性ナノ粒子を用いて細胞内でのATPセンシングを実現すると共に、複数の環境プローブ(ATP, pH)を有する機能性ナノ粒子の開発を行い、それを用いて細胞内イメージングに応用する。加えて、アプリケーションの開発も引き続き行う。細胞内ナノ分析イメージング技術の応用面でのデモンストレーションに適したアプリケーションの開発を行う。抗がん剤などの細胞内の挙動がよく知られている薬剤分子とタンパク質との相互作用や、細胞内の位置や環境に応じたその作用効率の変化の検出について本手法の有用さを調査する。また、細胞内におけるタンパク質のスペクトルを、その時間情報、位置情報とともに記録、分析することで、細胞の状態変化や、各種刺激に応答する応答を分子レベルで可視化を試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 4件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (46件) (うち国際学会 28件、 招待講演 30件)
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