研究課題
人類は、繁殖、冬眠、さえずりなど、季節によって変化する動物の行動や生理機能に魅了されてきたが、その仕組みは謎に包まれていた。例えば、動物が様々な臓器を使って季節の変化に適応する「臓器間ネットワーク」の作動原理は解明されていない。また、概日時計を使って日長を測定する「臨界日長」と、温度の変化に適応する「温周性」の設計原理についても未解明である。そこで本研究ではマウス、ウズラなどをモデル動物として季節適応を司る臓器間ネットワークの作動原理を解明することを目的とした。また、メダカをモデルとして季節感知機構の設計原理の解明を目標とした。さらにそれらの成果に立脚して、季節適応を制御する革新的機能分子を創出することで、動物の生産性の向上を図り、ヒトの疾患の克服を実現することを目的とした。26年度は、下垂体前葉由来の甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモン(TSH)と脳に春を告げる下垂体隆起葉由来のTSHが、組織特異的な糖鎖修飾によって、血液中で情報の混線を防ぐ仕組みを解明した。またウズラが脳内で光を受容する脳深部光受容器を同定した。さらにウズラが冬に繁殖を抑制する際に、精巣でオタマジャクシの変態を司る遺伝子が活性化することで、速やかに精巣退縮がおこることを明らかにした。また、光周性と温周性の設計原理の解明については、メダカを短日低温条件から長日温暖条件に移した際にトランスクリプトーム解析を実施した。さらに臨界日長の設計原理の解明については、様々な緯度の地域に由来するメダカの臨界日長を明らかにし、それらから作出したF2世代の表現型解析を完了した。また、革新的機能分子の開発については、受容体選択的な甲状腺ホルモンのアナログと概日リズムの周期短縮をもたらす新規な化合物を作出した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度計画していた全ての実験を予定通り実施することができた。さらに一部の実験については、27年度に予定していた項目についても前倒しで進めることができた。例えば、実験1の「季節感知の鍵因子の修飾制御機構の解明」については、26、27年度の計画を完了することができ、その成果をCell Reports誌に発表した。また実験2の「鳥類の季節適応をモデルとした臓器間ネットワークの作動原理の解明」についても、成果をCurrent Biology誌とEndocrinology誌とに発表した。実験3の「温周性、光周性の設計原理の解明」についても、計画通りにマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を実施した。また実験4の「臨界日長の地理的変異から明らかにする臨界日長の設計原理」の解明についても、26、27年度にそれぞれ計画していた各系統・集団の臨界日長の評価と、F2世代の表現型解析を完了することができた。実験5の「革新的機能分子の創出と季節適応の制御」についても、26年度に計画していた甲状腺ホルモンのアナログの開発に加え、27年度に予定していた概日時計を制御する分子の作出にも着手できた。
前述のとおり、26年度は当初の計画以上に研究を展開することができた。そこで27年度も一部の計画を前倒しにして研究を進めていく。例えば、「臨界日長の地理的変異から明らかにする臨界日長の設計原理の解明」については、当初、27年度に家系の作出、およびF2世代の表現型解析を実施する予定だったが、これらを26年度中に完了することができたため、28年度に計画していた量的形質遺伝子座(QTL)解析とゲノムワイド関連解析(GWAS)を27年度に前倒しして実施する。またこの実験では、日本の各地域に由来するメダカ系統・集団の解析を通じて、もともとメダカが生息していた緯度によって臨界日長が異なることを明らかにしたが、それに加えて、低緯度地域のメダカ集団が、短日条件下で繁殖活動の抑制を回避する仕組みを有することを発見した。そこで低緯度地域のメダカが短日条件下で繁殖活動の抑制を回避する仕組みの解明にも着手する。「温周性、光周性の設計原理の解明」については、26年度に短日低温条件(冬)から長日温暖条件(春)に移行した際の時系列サンプルを用いて、トランスクリプトーム解析を実施した。そこで27年度は当初の計画どおり、この解析で抽出した遺伝子の発現部位の同定と、機能解析を実施する。また、冬から春を感じる仕組みの解明に加えて、夏から秋を感じる仕組みについても解明するために、メダカを長日条件から短日条件に移した場合についてもトランスクリプトーム解析を実施する。また、動物が温度の変化を感知して適応する温度センサーを明らかにするために、温度センサーのノックアウトマウスの行動解析も実施する。「鳥類の季節適応をモデルとした臓器間ネットワークの作動原理の解明」については、26年度に計画していた全ての実験を完了し、2報の論文を発表した。これに関連して、最近、鳥のさえずりの季節制御に関与すると考えられる候補遺伝子を単離することに成功している。そこで27年度は鳥のさえずりの季節制御機構についても検討する。「革新的機能分子の創出と季節適応の制御」については、26年度に引き続いて、受容体選択的な甲状腺ホルモンアナログの合成と毒性の評価を行うとともに、概日リズムを制御する化合物のスクリーニングを行う。また、新たに冬季うつ病のモデル動物の検討とそれを用いた化合物ライブラリーのスクリーニングにも着手する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 7件) 図書 (1件) 備考 (3件)
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