研究課題
「フロテアソームに関する包括的基盤研究」ユビキチン化基質の鎖長制御機構 : ユビキチンコードの機能的要素であるユビキチン鎖の長さを解析する方法(Ub-ProT法)を開発した(Nat Commun 2018, Method Enzymol 2019)。K48/K63分岐型ユビキチン鎖によるプロテアソーム分解誘導 : 癌抑制、糖代謝制御に重要な役割を担うTXNIPがK48/K63分岐鎖によりプロテアソーム依存的分解を受けること、2種類のE3リガーゼITCHとUBR5が逐次的に分岐鎖を形成することを解明し報告した(PNAS 2018)。プロテアソーム液滴の形成機構と生理的意義 : これまで高浸透圧刺激により生じるプロテアソーム核内fociが液滴(Lipid-like Droplets)の性質をもつこと、複合体形成に失敗したリボソームの分解に関与することを示してきた。本年度、プロテアソームのシャトル分子RAD23Bとポリユビキチン鎖が液一液相分離(Liquid-Liquid Phase Separation)を引き起こすこと、そしてその結果、形成されたプロテアソーム顆粒が液滴として、タンパク質分解のセンターであることを明らかにした(Nature改訂中)。「生理病態学1 : 分子病態研究」パーキンソン病に関する研究 : PINK1-Parkin依存性のMitophagy経路においてRab(GTP-GDP)サイクルが関係していることを見出した(Elife 2018)。また家族性パーキンソン病の責任遺伝子PINK1(ATP結合型)のX線構造解析に成功した(Sci Rep 2018)。「生理病態学2 : 分子免疫研究」免疫型プロテアソームの研究 : T細胞の「正の選択」を誘導するMHC-class I結合ペプチドの網羅的同定に向けて、胸腺が肥大化マウスおよび超高感度質量分析計を用いた実験系を構築した(論文投稿中)。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで当研究室は、プロテアソームの分子基盤に関する研究を包括的に推進してきたが、平成30年度は、下記において世界を先導する成果を挙げた。多くの研究成果を挙げ、トップ雑誌に論文を発表した(主要成果)。「プロテアソームに関する包括的基盤研究」・出芽酵母26Sプロテアソームの細胞内動態(核と細胞質)をQuantitative live-cell imaging法で直接定量した(Nat. Commun. 2014)。・プロテアソームの分子集合(形成)因子Nas2の構造解析に成功した(Structure 2014)。・プロテアソームの分子集合(形成)因子PAC4の構造解析に成功した(Pro Sci 2017)。・独自に開発したTR-TUBE(トリプシン耐性のユビキ鎖に高い親和性を示すUBAプローブ)を開発し、ユビキチン化基質の同定方法を確立した(PNAS 2015)。・ユビキチン化活性のin vivoにおける検出方法とユビキチン化基質の同定法 : 独自に開発したTR-TUBE法を総説としてまとめた(Method Enzymol 2019a)。・細胞内のユビキチン鎖の長さを決定する方法を開発し、Ub-ProT法と命名した(Nat Commun 2018, Methods Enzymol 2019b)。・K48-K63分岐鎖を同定し、この分岐鎖がNF-&Bのシグナルにおいて重要な役割を果たしていることを見出した(Mol Cell 2016)。・K48-K63分岐鎖がプロテアソーム分解に関係していることを、世界で初めて突き止めた(PNAS 2018)。・糖鎖識別ユビキチン連結酵素についてのこれまでの研究を総説としてまとめた(RioEssays 2018, Front Physiol 2019)。「生理病態学1 : 分子病態研究」・PINK1によるユビキチンのリン酸化がParkinの活性化を誘導し、Mitophagy(不良ミトコンドリアの選択的オートファジー)を引き起こすことを見出した(Nature 2014)。・Parkinの活性化機構をリン酸化ユビキチンのSite-specific interaction mapping法で解明した(J Biol Chem 2015, 総説EMBO Rep 2015)。・PINK1が損傷ミトコンドリア外膜に蓄積するメカニズム(J Cell Sci 2015)とリン酸化ユビキチン鎖がParkinのリセプターであることを証明した(J Cell Biol 2015)。・パーキンソン病の原因遺伝子産物DJ-1がアルデヒドを酸化する解毒酵素として作用することを見出した(Sci Rep 2017)。・ミトコンドリア外膜に局在するUsp30の構造解析に成功し、Mitophagyの可逆的な制御機構を解明した(Nat Struct Mol Biol 2017)。・リソファジーに関係する糖鎖識別ユビキチンリガーゼ(SCFFBXO27)の同定に成功した(PNAS 2017)。・ドーパミンニューロン特異的にオートファジーを欠損させた老齢マウスの神経細胞においてレヴィー小体(封入体)が出現し、モータータンパク質の機能が不全になることを突き止めた(Sci Rep 2018)。・PINK1-Parkin依存的に不良ミトコンドリアが分解されるパスウェイにおけるRabサイクルのMitophagyにおける役割を解明した(Elife 2018)。・PINK1の構造解析に成功した(Sci Rep 2018)。「生理病態学2 : 分子免疫研究」・胸腺プロテアソームが正の選択を誘導する分子メカニズムの解明に成功した(Nat Commun 2015)。・胸腺プロテアソームがキラーT細胞の教育に関与することを証明した(Nat Immunol 2015)。・免疫(β1i, β2i, β5i)及び胸腺プロテアソームβ5tの同時欠損マウスを作製して、胸腺の正の選択に関わる機構を解明した(Nat Immunol 2016)。・胸腺プロテアソームβ5tのcTEC特異的な発現調節機構の解明に成功した(Nat Commun 2017)。・胸腺プロテアソームのヒトSNP解析によるVariationとキラーT細胞のレパトア形成について解析した(JCI Insight 2017)。・これまでの免疫プロテアソームおよび胸腺プロテアソームに関する知見(免疫プロテアソームと胸腺プロテアソームによるT細胞のレパトア形成機構)を総説として発表した(Nat Immunol 2018, Immunogenetics 2018)。
「プロテアソームに関する包括的基盤研究」プロテアソームを取り囲む分子ネットワークとそのダイナミクス、細胞・組織間におけるプロテアソーム機能の差異、プロテアソーム機能と老化との関連、ユビキチンコードの全体像についてはほとんど分かっていない。そこで今後、①プロテアソームの細胞内動態とストレス応答、②胸腺プロテアソームによるCD8+細胞障害性(キラー)T細胞のレパトア形成と「自己-非自己識別」の分子機構解明、③ユビキチンコードの包括的研究、④遺伝子改変マウスを用いたプロテアソームの病態生理学的研究、⑤ケモテクノロジーによるUPS制御法の開発、などの重要かつ新機軸課題に取り組む予定である。本研究より得られる知見はその学問的重要性のみならず、UPSを標的とした創薬および評価系の大きな基盤となり生命医科学の発展へ大きく貢献することが期待される。以下、具体的に進めている課題を列記する。・既にプロテアソームと相互作用する分子(p97ATPase-Npl4-UFD1複合体)の部分X線結晶構造解析に成功しているが、今後、極低温(クライオ)電子顕微鏡を用いて、全体構造の解析を行う計画である。・ケモテクノロジーによるUPS制御 : HPV16陽性子宮頸がんに関与するユビキチンリガーゼE6-APとプロテアソームの相互作用部位を決定し結晶構造解析に成功した(論文投稿中)。そこで、次に、これらの相互作用を破壊する短鎖阻害ペプチド(Stapled peptide)の開発に挑む。・プロテアソームの発現・局在・活性を可視化するマウスを作出し、個体におけるプロテアソームの動態や機能を解析する : プロテアソームを構成するサブユニットの遺伝子群は、全てが生存に必須であるので、それらの変異による遺伝病は、これまで報告されてこなかった。しかし最近、調節粒子(RP)を構成するPSMD12(Rpn5)遺伝子の片方のアレルにミスセンス・ナンセンス変異を、そして臨床症状として頭蓋顔面奇形・小頭症を伴う発達障害を呈する患者が報告された。そこでCRISPR/Cas9法により、マウスの該当遺伝子に類似の変異を導入すると、発育遅延や運動障害が観察された。世界初の全身性のプロテアソーム機能減弱(psmd12+/m)マウスである(未発表)。今後、Cre-loxPシステムを導入して条件的プロテアソーム機能減弱マウスを作出し、細胞・ … もっと見る 臓器におけるプロテアソームの個別の役割をin vivoで解析することを計画している。さらに本研究では、プロテアソームの発現レベルや局在を細胞内で可視化・定量可能な蛍光標識プロテアソーム遺伝子のノックイン(KI)マウスや、生細胞でプロテアソーム活性を直接モニターできるように設計した外来の「蛍光標識基質遺伝子」導入トランスジェニック(Tg)マウスを作出し、透明化技術などを活用して個体レベルで解析、生理学研究への展開を図る。これらのプロテアソームの量や質を正確に定量できるモニターマウスを、既に作出したプロテアソーム機能減弱マウス、オートファジー欠損マウス、ガンや神経変性疾患などプロテアソームの関与が示唆されている多様な疾病モデルマウスと交配し、様々な病態発症におけるプロテアソームの役割を個体レベルで解析するという野心的なプログラムに取り組む。「生理病態学1 : 分子病態研究」PINK1-Parkin依存性のMitophagy不全が引き起こすパーキンソン病の発症機構は、ほぼ解明した。今後は、ヒトにおけるパーキンソン病の発症にPINK1-Parkin依存性のMitophagyが実際に関与しているか否かについて検証する計画である。「生理病態学2 : 分子免疫研究」免疫学的「自己と非自己」識別の核心であるT細胞レパトアの形成原理を解明する代表者らは、プロテアソームに分子多様性があり、標準(構成型)酵素以外に触媒サブユニットが変換した免疫プロテアソーム(Science 1994)と胸腺プロテアソーム(Science 2007)が存在することを世界に先駆けて発見した。その後、これらの機能変換した亜型酵素に関する膨大な研究から、前者は細胞性免疫の始動反応に、後者はキラー(細胞傷害性)T細胞の「正の選択」によるレパトア形成に必須な役割を果たしていることを明らかにして、その多様な成果を国内外に発信し続けてきた(概要は本年発表したNature Immunology 2018の総説に記載)。T細胞のレパトア形成は胸腺で行われ、皮質での「正の選択」(非自己を特異的に破壊する有用なT細胞の生存)と髄質での「負の選択」(自己と反応する有害なT細胞の除去)から構成されている。しかし胸腺プロテアソームには、まだ未解決の大きな謎が残っている。それは「正の選択」を誘導するMHC-class I結合ペプチドの同定である。本研究では、この「正の選択」誘導ペプチドを同定してバーネットが提唱したクローン選択説の究極的な証明に挑むとともに、これまでに提案してきた二つの仮説「The low affinity motif hypothesis」(提示ペプチドとMHC-class Iの親和性avidityの相違による正の選択の誘導仮説 : Nat Commun 2015)と「The peptide switch hypothesis」(胸腺の皮質上皮性細胞cTECと髄質上皮性細胞mTECでの提示ペプチドの相違による正の選択の誘導仮説 : Nat Immunol 2016)について、どちらが正鵠であるかの最終的な決着を図る。 隠す
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 7件、 招待講演 18件) 備考 (2件)
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