研究課題/領域番号 |
26220003
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲葉 雅幸 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (50184726)
|
研究分担者 |
岡田 慧 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (70359652)
矢口 裕明 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任講師 (00568115)
垣内 洋平 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任講師 (70501328)
野沢 峻一 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任講師 (80707620)
|
研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
|
キーワード | ヒューマノイド / 自己身体像獲得 / 行動様式獲得 / 道具・環境モデル獲得 / 身体割り込み注意 / アフォーダンス / SLAM / 身体拡張 |
研究実績の概要 |
H28年度は,本研究の柱となる1. 身体モデル獲得のための体内SLAM基礎技術,2. 作用推定に基づく物体・道具・環境モデル獲得・行動範囲拡張応用,3. 行動様式獲得のための実行・観察基盤システムの構築,の三つの項目についてそれぞれ以下のような研究実績となった. 1の身体モデル獲得では,腱駆動ヒューマノイド腱悟郎において,環境操作に必須な前腕・ハンド系の開発を進めた.ハンドは,環境保持とそれを利用した運動実現を目指し,身体負荷を支持可能な5指ハンドとし,自身の身体筋拮抗関係に基づき拮抗内力を緩和する拮抗抑制制御を提案し,肩甲骨,肩関節の適用による上腕の直上挙上によってぶら下がり動作を実現した. 2の物体・道具・環境モデル獲得では,物体の物理特性の獲得に取り組み,物体操作中の力覚センサ情報を用い,物理特性が逐次的に推定されていく手法を提案した.また,深層学習を用いたばら積み物体認識を,ロボットの身体形態によらず実現する枠組みを提案した.環境モデルの獲得では,防水スーツを着せたことによる力センサオフセット補償や水中内浮力推定に基づく制御手法を提案し,ヒューマノイドの水中内歩行を実現した.また,環境の幾何情報や物体意味情報を内包するセマンティックマップにおいて,現在の環境情報とロボットの記憶情報とを深層学習によって照合し,物体位置が変わっていてもタスクを遂行可能な手法を提案した. 3の行動様式獲得では,人の行動模倣獲得構造に着目し箒掃き動作の獲得に取り組んだ.ヒューマノイドに箒掃きを観察させ,箒掃き時の姿勢,力センサ値を複数回とり学習させることで,異なる長さの箒であっても箒掃きが可能となる枠組みを提案した.運動様式獲得では,ヒューマノイドのダイナミック動作に取り組み,手先末端速度を最速にする最適化計算を行い,自動的に振りかぶり動作が生成されるラケットスイングを実現した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究室全体で共通のソフトウェア基盤を30年にわたり構築してきている土台の上に,予算の前倒しによる加速と,本研究での以下の新しい成果を積み上げ,複数系列の統合を行ってゆく準備が着々とできてきていると考えているからである. 1.筋骨格ヒューマノイドの基盤プラットフォーム化としての開発を行ってきており,非線形身体における身体写像マッピング手法として,位置空間での筋長-関節角度マッピングと,力空間での筋張力-関節トルクマッピングを実現してきている. 2.水中環境で浮力などが普段と異なる状況であっても,ヒューマノイド自身がセンサ値から現実世界での自身の状態を獲得できたことに相当し,事前に書き下されたモデルベースで進められてきたこれまでのヒューマノイド研究において,大きな進歩であると考えている. 3.搭乗器械を含む物体・道具・環境・行動様式獲得においては,大型物体の運搬操作として,ロボットの物体に対する試行検証操作を通して,押し操作・ピボット操作・持ち上げ操作から適切な操作決定手法や,重量に応じて肩,尻など適切な部位を選択していける方法を提案した.人は練習により行動を獲得するように,ヒューマノイドにおいても搭乗機器操作に取り組み,三輪車やスケートボードの操作行動を実現してきている. 4.機械学習機能を統合するセマンティックSLAM機能への展開にも取り組んできた.タスク実行には,物体への意味や役割の付加が重要であると考え,幾何情報のみをもつ従来のSLAMにセマンティックな情報を付加したセマンティックSLAMへの拡張に取り組んでいる. 5.人の行動観察より,視覚やセンサ情報から,箒とゴミの位置関係の変化をセンシングし,初期状態と目標状態の遷移をヒューマノイド自身が生成してゆくシステムの内部処理系を統合し注意制御機構,処理密度管理,予測機能組込みなどを統合できるシステム開発を行ってきた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は以下の各獲得項目の研究を進めることと,それら3つを独立に扱う獲得法ということではなく,物体の存在を環境記憶としても獲得してゆくセマンティックSLAMと,人間の行動様式との関係性への理解を深め,セマンティックSLAMを行動様式獲得へと展開し,獲得型研究の深化を進める.また,処理の処理密度制御機能や獲得記憶からの動作後に受ける状況の予測を行う方向の展開も考慮に入れて研究を進める. 1.身体像・身体操作モデル獲得:腱駆動ヒューマノイドの全体重支持可能な把持力を利用する全身行動、脊椎体幹柔軟性を利用する行動を通して、身体・道具・行動様式全体の獲得へと展開する.関節構造の特性変化に応じた身体像獲得法、鏡等による自己視認による身体獲得,外装による身体負荷変化を自身の記憶と照合する記憶照合に基づく身体獲得,自己身体に触れることによる身体状態確認獲得などを進める. 2.物体・道具・環境モデル獲得:物体構造・操作法,操作関係,環境道具利用の研究を着水環境での土木作業環境など作業環境・利用道具を広げつつ進める.物体認識については,一般に公開されているデータだけでなく,ロボットが日常的に活動している環境に存在する物,道具,環境,人に対する観察から学習データを得てゆく仕組みを構築する.搭乗型機器など可変構造物体・道具・環境であっても,視覚構造を獲得した情報を初期情報として修正してゆくことで,可変モデルも獲得していくことを目指す. 3.操作行動・行動様式獲得:人の日常活動の長期間の継続的運用に基づく行為観察,対人反復を通しての行動様式の獲得、日用品だけでなくお弁当など傾けてはいけない食品製品などを扱う際の操作法、背骨自由度を利用する全身行動、ブレークダンスなどの全身動的行動、土木作業用具の行動様式など,各ヒューマノイド系列に応じた行動の種類を広げてゆき、行動様式の獲得法の深化を進める.
|