研究課題/領域番号 |
26220101
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷部 文雄 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (00261735)
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研究分担者 |
塩谷 雅人 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (50192604)
青木 周司 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00183129)
藤原 正智 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (00360941)
柴田 隆 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (70167443)
林 政彦 福岡大学, 理学部, 教授 (50228590)
西 憲敬 福岡大学, 理学部, 准教授 (00222183)
宮崎 和幸 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球表層物質循環研究分野, 主任研究員 (30435838)
荻野 慎也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 大気海洋相互作用研究分野, 主任研究員 (80324937)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 物質循環 / 成層圏大気大循環 / 熱帯対流圏界層 / 脱水過程 / クライオサンプリング / 大気の年齢 / 重力分離 / アイソトポキュール |
研究実績の概要 |
2015年2月にインドネシアで実施した大気球観測により採集された成層圏大気サンプルを日本へ輸送し、東北大学などで精密に解析した。その結果、8高度中7高度で十分な量の大気サンプルの採集が確認され、代表的clock tracerである二酸化炭素と六フッ化硫黄(SF6)の混合比の鉛直分布から、熱帯成層圏大気の「年齢」の高度分布の直接観測に初めて成功した。その結果は、SF6の衛星観測に基づき他の研究グループによって評価された「年齢」、全球客観解析データに基づいて評価された「年齢」、水蒸気「テープレコーダ」に記録された鉛直上昇履歴のいずれとも整合的でない。この事実は、比較的単純と予想されていた熱帯成層圏における大気の鉛直移流が、現在の知見では十分に理解できないことを示す。 上記の分析に続いて実施した各種同位体や主要成分の精密分析により、熱帯成層圏大気の重力分離が世界で初めて観測された。得られた値は、中高緯度成層圏で観測されている値より有意に小さく、高高度ほど大きいことが分かった。この事実は、熱帯成層圏を上昇中の大気で重力分離が徐々に進行している様子を反映していると解釈される。 エアロゾルサンプラーの採集容器からは、微量ではあるが成層圏エアロゾル試料が確認された。ただし、電子顕微鏡による化学組成解析には慎重な取り扱いが必要で、分析にはもう少し時間を要する。 これらの結果は、日本気象学会、大気球シンポジウム、米国で開催された国際学会などで発表した。なお、現場観測データを利用した研究とは別に、全球客観解析データに基づく流跡線解析により、2000年に観測された成層圏水蒸気の階段関数的減少に関する研究を行った。その結果、階段関数的減少の起こった時期を2000年9月と特定し、そのメカニズムについて新しい仮説を提示する論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クライオジェニックサンプラーによる熱帯域における成層圏大気試料の採集が成功し、7高度で得られた試料から大気の「年齢」の鉛直分布が現場観測により評価されたことは大きな成果である。採集試料の分析においては、LAPANの研究者育成に貢献するため、若手1人を半年に渡って日本に招待し、解析の経験を積ませることができた。こうした経験は、インドネシアの科学技術発展に寄与するだけでなく、今後の協力関係の継続・発展にも貢献するであろう。 熱帯成層圏での重力分離が初めて定量化されたことも大きな成果である。重力分離は、clock tracerによる「年齢」、水蒸気「テープレコーダ」による位相遅れに続く、第3の独立な手法として、成層圏循環強度・変調の指標として利用できる可能性を秘めている。採集試料の分析が順調に進み、解決すべき課題が明瞭化されたことに加え、重力分離という新たな切り口による解析の可能性が広がったことは、研究が順調に進捗していると評価するに十分な成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今回の観測で得られたデータにより、熱帯成層圏の大気大循環・物質輸送に関する現在の知見は不十分であることが明確になった。問題点を整理し、研究の推進方法を議論するため、年度末に合宿形式で研究会をもった。議論の結果、問題の本格的解明には時間がかかることが予想されたため、まずは、観測プロジェクトの概要を記した論文を発表するとともに、研究グループ内部で複数の切り口で分担して研究を進めることとなった。代表的手法は、客観解析場を利用したラグランジュ的アプローチと化学輸送モデルによるシミュレーションである。 観測データとして不足しているのは、北半球夏季に予想される成層圏下端における中緯度からの影響である。夏季に同様の観測を実施し、clock tracerによる「年齢」の鉛直分布の季節変動を評価するのが有効と考えられるが、残念ながら現課題の予算規模では、もう一度大気球観測を実施することはできない。そこで、二酸化炭素に限定することによりゴム気球で下部成層圏までの高度分布を観測できないか検討しているが、まだ技術的な問題を解決するには至っていない。予算的に可能な次善の手段としての観測を検討した結果、オゾン・水蒸気流入過程を亜熱帯上空で捉えることにより得られる情報に注目し、本年度から分担者を追加して夏季のハノイでのゾンデ観測を開始している。
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