研究課題
無節サンゴ藻のCO2分圧可変条件での飼育実験を実施した。pCO2が300~1500μatmとなるように調整した海水中で無節サンゴモを5ヶ月間培養し、エゾアワビ浮遊幼生に対する着底・変態誘因効果を調べた結果、浮遊幼生はいずれの無節サンゴモに対しても80%以上の高い割合で着底・変態し、培養時のpCO2間で着底・変態率に有意な差は認められなかった。屋外設置型装置を用いてpCO2を約300から1000μatmの5段階に調整した海水でハマサンゴ片について長期飼育を試みたところ、過去のpCO2である約300μatmの実験区のみ骨格成長量が大きい結果が得られた。pCO2を調整した条件で沿岸生物の加入・定着を明らかにする実験のために、国内4施設で実験装置の整備を完了した。また、加入実験を開始するための技術的検討を行った。石灰藻類を含むサンゴ礁生物を対象とした水槽内での加入実験のため、複数の着底板を、瀬底研究施設における屋外式のpCO2制御装置で作成した酸性化海水に設置し、石灰藻類や細菌類等のDNAサンプルを得るための基本的準備を進めた。実験に用いる定着板の溶出実験を実施した。各定着板の1M酢酸24時間溶出液をICP発光分光分析装置で定性分析した。材質により元素の溶出の程度が大きく異なり、生物定着のしやすさも考慮して、複数材質を用いることとした。定着板に付着した藻類を評価する方法として、多波長蛍光光度計で異なったpCO2の海水に長期間設置した定着板に付着した藻類を計測したところ、藍藻量が高いpCO2区で高くなる傾向が見られた。魚類の順化・適応の可能性を評価する目的で、世代交代が10 か月程度と特に短いPterapogon kauderniを用いて継代飼育実験を実施した。また、有用魚種の再生産への海洋酸性化影響を評価する目的で、pCO2を制御した水槽内におけるマダイの繁殖実験を実施した。
2: おおむね順調に進展している
屋内型pCO2調整装置を用いる沿岸生物への海洋酸性化影響を評価する実験は、琉球大学瀬底研究施設、東北区水産研究所宮古施設で、それぞれ亜熱帯、亜寒帯の生物種を対象として進めている。宮古施設では、巻貝に対してpCO2の日周変動を加えた影響を推定する実験も行い成果を得た。屋外型pCO2調整装置は、大流量海水のpCO2調整を行う点で先進的な取り組みであるが、その設置については施設ごとの条件の違いを考慮する必要があり、予定よりやや時間がかかった。この大流量海水pCO2調整装置を用いる共同実験である加入・定着実験については、その技術的問題の解決について、分担者間の協力を進めた。主として海洋生物環境研究所で実施している魚類の順化・適応の可能性を評価する実験では、世代交代が10か月程度と特に短いPterapogon kauderniの第0世代(親世代)を3段階のpCO2(対照区・850μatm区・1,200μatm区)に設定した海水でペア飼育し、産卵頻度・産卵間隔・産卵数を求め、現在第1世代の飼育を行っている。第0世代では、全ての測定項目についてpCO2分圧の違いによる顕著な影響は認められなかった。また、魚類の再生産に及ぼすpCO2の影響評価では、マダイ親魚を3つの実験水槽(対照区、1,000μatm区、2,000μatm区)に収容し、産卵数・正常発生率を求めた結果、2,000μatm区でばく露後に産卵が停止し、高CO2分圧での影響が示唆された。また、常葉大学では海洋酸性化評価に必要な沿岸海洋モデル化のためのデータセット整備や化学過程の解析を継続するとともに、計算サーバーを導入し沿岸域の流動モデル開発に着手した。
今年度においては、国内4施設で設置完了した大流量pCO2制御装置を用いた加入・定着実験を開始する。基本的施設の条件の相違をそろえるのは不可能であるので、各施設毎に石灰化生物と非石灰化生物比のような大くくり指標でみることが必要と考えている。そのためにも、遺伝子を用いる解析の応用、適用生物群の拡大を進める。室内型飼育装置を用いる実験では、生態系影響評価の端緒として、石灰藻・微細藻類・大型藻類とウニ類・貝類などの植食動物との種間関係に及ぼす酸性化影響を飼育実験により評価する予定である。また温暖化とpCO2の複合影響が懸念されるサンゴ類を対象として、pCO2制御装置で作成した酸性化海水に高水温処理を加えて、酸性化と高水温の相乗的作用検証と、サンゴ種間での酸性化と高水温耐性を比較するための実験を実施する予定である。魚類の順化・適応実験、再生産の実験は、長期の継続が必要な課題であり、本年度も継続する予定である。
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