研究課題
屋内型CO2制御装置を用いた研究では、サンゴのプラヌラ幼生の定着率と、定着後の初期ポリプの成長・代謝に及ぼす海洋酸性化の影響の評価として、サンゴ産卵期に得られたコユビミドリイシのプラヌラ幼生と初期ポリプを用いて、4段階の酸性化暴露実験を行った。6段階同時計測型大容量CO2制御装置を用いた研究では、世代交代の早い熱帯性のテンジクダイ科魚類Pterapogon kauderniの第0世代(親世代)を3段階のpCO2に設定した海水でペア飼育し、産卵回数と産卵間隔を求めた。第1世代稚魚のCO2影響急性毒性実験を行った。継代飼育実験は継続中である。アカガイ,ウバガイの2種について海洋酸性化実験を実施し、体成長や殻成長への影響を評価した。アカガイは酸性化条件下でも殻成長・体成長ともに有意な変化はみられなかった一方で、ウバガイでは酸性化が進行するほど、殻の厚みが薄くなる傾向がみられ、種による海洋酸性化耐性の違いが顕著であった。屋外型CO2制御装置を用いた研究では、海洋酸性化がサンゴ種間の空間競争に及ぼす影響を評価した。2種のサンゴを異種間であるいは死んだサンゴと接触させ、通常海水と酸性化海水中で飼育し骨格の伸長から酸性化と種間競争の影響を評価した。エゾバフンウニについて、異なるpCO2下で幼体から成体に成長するまで長期飼育し、生残、成長、摂餌量を比較した。生残率と体重当たりの摂餌量には濃度区間で有意差は認められなかった。飼育終了後、ウニの棘の微細構造を電子顕微鏡で観察した結果、1000μatm以上の濃度区では微細な構造が失われ溶解の痕跡が認められた。大型の魚種としてマダイの再生産における海洋酸性化の影響評価実験を実施した。定着板の比較実験を行った上で、5段階にpCO2調整した水槽による環境海水を用いた加入実験を参画機関施設で開始し、継続中である。
2: おおむね順調に進展している
種レベル影響評価では琉球大学研究施設で、海洋の温暖化と酸性化で最も脆弱な生物群のひとつと考えられるサンゴを中心とする亜熱帯生物の海洋酸性化研究が進められ、世界の研究者との共同研究を含めて実施された。石灰化生物の石灰化機構に関しては、化学分析・同位体分析による成果があった。亜寒帯生物に関しては、主に水産研究・教育機構宮古施設で巻貝、ウニなどの影響評価実験が進行している。生態系影響を評価する実験としては、サンゴの種間競争、無節サンゴ藻と貝の着底の関係などの実験が実施できた。加入・定着実験は、当初の想定より開始が遅れたものの、今後の成果が期待される。魚類の再生産実験では、世界でも始めての海洋酸性化条件下における継代飼育実験が順調に進行している。全てをpCO2制御した系で、親世代の産卵から次世代稚魚の飼育、次世代の産卵、次次世代稚魚の飼育、という当初計画から時間がかかることを想定した実験であり、今後の進捗が期待される。また、年間1回しか行えないマダイの再生産における海洋酸性化実験では、水槽あたり80L毎分という莫大な量の海水のCO2を制御して行う実験が成功し、年々実験の精度も高まっている。温暖化・海洋酸性化複合実験では、供給海水の水温制御が可能な海生研柏崎における実験で、サンゴに対する複合影響の評価実験が進められた。また、琉球大学施設においてもサンゴに対する温暖化・海洋酸性化複合実験が進行している。酸性化影響モデルに関しては、実験グループの成果を活用するような今後の進捗が必要である。
屋内型装置を用いた種レベルの影響評価実験は、西部太平洋に位置するわが国の研究として意義のある生物種・群に関する実験を継続する。これまでに実施した研究のまとめとともに、温度制御を行いやすい屋内型装置を活用して、高水温と酸性化の組み合わせでサンゴの石灰化に種間の影響差があるかどうかの実験を行う。6段階同時計測型大容量CO2制御装置を用いた研究では、魚類の継代飼育実験を継続する。第0世代から第1世代を経て第2世代の生産を開始している段階であり、第3から第4世代まで継代することが可能と考えられる。魚類の再生産を完全に高CO2環境で行う世界初の実験であり、海洋酸性化に高等動物が順化・適応する可能性があるかを評価する貴重なデータが得られることが期待される。また、海洋生物の石灰化応答における分類群による違いや種による差異の原因解明を行う。石灰化応答の違いは、それぞれの石灰化機構の違いに起因している可能性が高く,骨格形成部位への外部海水の供給量が酸性化耐性を規定するのではないかとの作業仮説を検証する。屋外型CO2制御装置も用いる実験では、装置が長期間に生物を飼育することに適しているため、瀬底施設では長期間のサンゴ飼育を行う。半年以上酸性化海水でサンゴを飼育し、酸性化がサンゴの成長に及ぼす長期的影響と有性生殖に及ぼす影響に関する実験を実施する。宮古施設ではキタムラサキウニについて、幼体から成体まで異なるpCO2下で長期飼育実験を行い、生残、成長、成熟、摂餌量、殻の形成機構などに及ぼす海洋酸性化の影響を評価する。飼育開始時から棘の分析を実施することとなり成長に応じた化学成分の変動とpCO2の関係性を考察する。屋外型装置を用いる加入・定着実験については4施設で継続する。着底板サンプルの細菌叢および石灰藻類のメタバーコーディング解析から、目視以外の生物群の分類解析も実施する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 6件)
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