研究課題/領域番号 |
26220102
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
野尻 幸宏 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (10150161)
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研究分担者 |
林 正裕 公益財団法人海洋生物環境研究所, 海生研実証試験場, 研究員 (20444870)
井上 麻夕里 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20451891)
酒井 一彦 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (50153838)
高見 秀輝 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 東北区水産研究所, 主任研究員 (50371802)
井口 亮 沖縄工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (50547502)
鈴木 淳 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60344199)
石田 明生 常葉大学, 社会環境学部, 教授 (60359148)
中野 智之 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (90377995)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 二酸化炭素 / 海洋酸性化 / 沿岸生物 / 石灰化 / 生態系影響 / 飼育実験 / サンゴ / 水産有用種 |
研究実績の概要 |
琉球大学瀬底施設で、高水温と高CO2分圧の複合影響を検証するために、2種のサンゴを屋内水槽で400ppm×常温、1000ppm×常温、400ppm×3℃高温、1000ppm×3℃高温の4条件で飼育する実験を行った。その結果、高水温と高CO2分圧が同時に起こるとサンゴの石灰化が有意に減少することが示された。 水産教育・研究機構宮古施設で、キタムラサキウニを幼体から成体に成長するまで長期飼育し、成長、生残、摂餌量を比較した。成長速度はCO2分圧の上昇に従い低下し、特に1000ppm以上で大きく減少した。ただし、ほとんど全ての個体が生残し、摂餌量にはCO2分圧間で差が認められなかった。外骨格のMg/Ca比はCO2分圧増加と共に上昇する傾向を示した。 海洋生物環境研究所柏崎施設で、世代交代の早い魚種(Pterapogon kauderni)を用いて酸性化環境における継代飼育実験を実施した。第1世代(子世代)を3段階のCO2分圧(対照区(約530ppm)・850ppm区・1200ppm区)に設定した水槽でペア飼育した結果、全実験区で産卵し第2世代(孫世代)を生産した。また、第1世代の稚魚の一部を用いてCO2の急性毒性実験を行ったところ、850ppm区で産出された稚魚の生残率が高く、対照区と1200ppm区は同程度だった。結果から、850ppmのCO2分圧下においてP. kauderniは1回の世代交代で酸性化環境に対して順化・適応する可能性が推察された。 屋外型CO2制御装置で5段階にCO2分圧調整した水槽に定着板を入れ、約6ヶ月間でどのような付着生物が加入・定着するかを実験し、CO2分圧の違いによる変化を評価した。定着板及びサンゴ片からDNAを抽出し細菌類のメタバーコーディング解析を行なった結果、定着板について瀬底と柏崎の2地点間に明瞭な細菌叢組成の違いが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海洋酸性化の種レベル影響評価として、各実験施設で研究を継続した。琉球大学瀬底施設ではサンゴを中心とする亜熱帯生物を対象に、水産教育・研究機構の宮古施設ではウニを中心とする温帯・亜寒帯生物を対象に実施し、化学分析や遺伝子解析を加えた新たな成果が得られた。 CO2分圧制御水槽を用意し、外界からの生物種加入・定着を見る実験では、試料の解析を実施した。海洋生物環境研究所柏崎施設と瀬底施設共に、CO2分圧の増加に伴い、付着生物の有機炭素/無機炭素比が減少し、付着生物に含まれる炭酸カルシウムの結晶形において、あられ石や高マグネシウム方解石の比率が方解石に比べて低下する傾向がみられた。試料の分析の結果を今後の実験改善に役立てることができる。同様な実験は世界でも例がなく、種が多様な自然の系における海洋酸性化影響を評価する上で、重要な実験結果である。 魚類の継代飼育実験は、CO2分圧を制御した系で親世代の産卵から次世代稚魚の飼育、次世代の産卵、次次世代稚魚の飼育とその先を行うため、当初計画から時間がかかることを想定しており、進行中である。本研究課題期間中に、第2世代以降の実験を継続する。また、有用魚種の再生産への海洋酸性化影響を評価する目的で、CO2分圧を制御した水槽内におけるマダイ(Pagrus major)の繁殖実験を実施し、昨年までの結果と比較したところ、天然魚と種苗生産魚で酸性化に対する感受性が異なることが推察された。実験済みのシロギスと比較し、マダイのほうが海洋酸性化に対する感受性が高いことが示唆された。 温暖化と海洋酸性化の複合影響の実験は、屋内型CO2制御装置が稼働している琉球大学瀬底施設で継続的に実施し、サンゴに対する複合影響の評価実験が進められた。 進行している各研究は海洋酸性化影響の日本における地域研究として重要性の高いものであり、今後も継続して研究を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
種レベルの影響評価実験は、計画時から期間を通して実施する予定であり、西部太平洋に位置するわが国の研究として意義のある生物種・群を選んでの実験を継続する。屋内型CO2制御装置が稼働している琉球大学では、高水温と酸性化の組み合わせでサンゴの石灰化に種間の影響差があるかどうかの温暖化・酸性化複合実験を行う。 魚類再生産実験のうち、継代飼育は当初から長期にわたる実験であり、第2世代以降の実験を継続し、複数世代への酸性化影響と順化・適応を評価する。 屋外型CO2制御装置は、長期間に生物を飼育することに適しているため、瀬底施設では長期間のサンゴ飼育を行う。装置を屋内設置している宮古施設では、亜寒帯沿岸域の主要な植食動物であるウニ類について、幼体から成体まで異なるCO2分圧下で長期飼育実験を行い、生残、成長、成熟、摂餌量、殻の形成機構などに及ぼす海洋酸性化の影響を評価する実験を継続するとともに、重要な水産種であるマコンブへのCO2影響評価を実施する予定である。 CO2分圧を制御した水槽を用いる加入実験は、瀬底、柏崎で2回目を実施するが、動物の加入が見込めない宮古施設では短期の実施において主に植物の生育を評価することとする。加入実験においては、定着生物種の炭素と炭酸カルシウムの化学分析を行うとともに、目視できない生物について遺伝子を用いる分類解析を実施し、定着種構成へのCO2分圧の影響を評価する。 最終年度にあたって、研究成果の解析とまとめを進める。
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