研究課題
今年度の実績の概要は以下の通りである。1)ビスフェノール類(BPs)の分析法を確立し、一部のBPsは衣類中に高濃度に含まれ、洗濯排水が主要な環境汚染源になっている可能性を示した。また、GCxGC-HRTOFMSを用いた多環芳香族炭化水素の同定法を確立し、アルキル化ベンゾ[a]アントラセン・クリセンの一部異性体が環境中で難分解であることを明らかにした。さらに、動物組織を対象とした12種のリン酸エステル系難燃剤の新規分析法開発を試み、10種の高精度分析に成功した。2)鳥類3種のダイオキシン受容体AHRのin silicoホモロジーモデルを構築し、AHR1とダイオキシン類との結合には、ニワトリAHR1の324Ileと380Serに相当するアミノ酸残基の分子動力学シミュレーションによって説明できることを明らかにした。また、バイカルアザラシのシトクロムP450(CYP)のin vitro発現系および in silicoホモロジーモデルを構築し、CYP1A2は進化の過程でヘム近傍のスレオニンがプロリンに変異したため代謝能が失われたことを示した。3)バイカルアザラシを対象に、PCBsとその水酸化代謝物(OH-PCBs)の蓄積濃度とトランスクリプトームの関係を解析した。その結果、PCBs・OH-PCBs曝露によって活性化されたAHRを介して慢性肝炎が誘導され、脱ヨウ素化酵素によるT4からT3への代謝経路が撹乱されている可能性が示された。また北太平洋産ミンククジラを対象にしたトランスクリプトーム解析でも、ダイオキシン様PCBsの曝露によってビタミンD受容体シグナル伝達系の抑制や内因性AHRリガンドであるキヌレニンの合成促進が示唆された。4)プレグネノロン曝露したゼブラフィッシュ胚を用いて、核内受容体PXR発現依存的に100を超える遺伝子の発現量が増加することがわかった。さらに、ダイオキシンに対して感受性の異なるマウス2系統を用いて感受性規定因子を探索し、hnRNP-A2/B1を同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
ビスフェノール類(BPs)や多環芳香族炭化水素(PAHs)・リン酸エステル系難燃剤の分析法を開発し、野生動物に蓄積した化学物質のエクスポゾーム解析を進めている。また、アザラシやクジラの野生個体群やプレグネノロン曝露したゼブラフィッシュ胚のトランスクリプトーム解析をおこない、化学物質曝露濃度と遺伝子発現プロファイルとの関係についても検証できた。さらに、鳥類ダイオキシン受容体AHRの感受性を規定するアミノ酸残基(ニワトリAHR1の324Ileと380Serに相当するアミノ酸残基)や、マウスのダイオキシン感受性規定因子(hnRNP-A2/B1)の同定に成功した。以上の結果は、初年度の研究成果としては十分で、想定し得る範囲であることから、研究は予定通り順調に進んでいると判断した。
代表的環境動物種の各臓器・組織に残留するエクスポゾームの解析は継続しておこなう。同定・定量が難しい化学物質の分析法の開発も進める。また一部の化学物質およびその代謝物に関しては、トキシコキネティクス解析も実施する。エクスポゾームと受容体の相互作用を網羅的に解析するため、まず環境試料から検出された化学物質を対象に、in vitroレポーター遺伝子アッセイ系により各受容体の転写活性化能を測定する。さらに代表的環境動物種の各受容体やシトクロムP450(CYP)タンパク質との結合モードをin silicoでシミュレーションし、相互作用に関与するアミノ酸残基の同定を試みる。ビスフェノールA(BPA)は、低用量で生体にエストロゲン作用などの内分泌かく乱を引き起こすことが知られているが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多い。そこで今後は、魚類・鳥類・哺乳類を対象に、BPAの胎児期曝露による次世代(出生仔)への影響とそのメカニズムの解明を目指して研究を遂行する。具体的には、ゼブラフィッシュ卵やニワトリ卵・妊娠ラットにBPAおよび陽性対照としてのエストラジオール(E2)を投与した後、孵化した仔魚や雛・仔ラットからRNAを抽出・精製し、トランスクリプトーム解析を実施する。また同じ試料のプロテオーム解析も同時並行して進める。
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