研究課題
1)鳥類11種の肝臓を対象に、有機リン系難燃剤(PFRs)の定量を試みた結果、7種からTCEPおよびTDCIPPの2化合物が検出された。二次元ガスクロマトグラフ質量分析計の測定条件を最適化し、有機ハロゲン化合物の網羅的スクリーニング手法を確立した。その結果、瀬戸内海のイガイは、これまで未同定であった2臭素1塩素化のミックスハロゲン化ダイオキシンに曝露されていることを明らかにした。さらに、沿岸環境に存在する40種のプラスチック製品を分析したところ、可塑剤・酸化防止剤・直鎖アルカン等を同定した。2)イエネコを対象にPCBsのin vivo曝露試験を実施した結果、本種は高塩素化PCBsをほとんど代謝できず、糞から排泄していることがわかった。また、血清中のメタボロームを解析した結果、PCBs曝露によるペントースリン酸回路関連代謝物の抑制や、還元型グルタチオンの生成能力の低下が示唆された。3)ゼブラフィッシュ胚を用いたエストロゲン受容体(ER)リガンドのin vivoスクリーニング系を用いて、ビスフェノール類(BPs)とPFRsのER活性化能を検証した。その結果、化合物特異的なCYP19A1bのmRNA誘導能を確認した。また、in silico実験により、ERと安定した相互作用を示す化合物ほど、in vivo系でCYP19A1bの発現誘導能が高い傾向を示した。4)妊娠中の母ラットにビスフェノールA(BPA)を投与し、仔ラットへの影響とその作用機序の解明を試みた。その結果、BPAの胎児期暴露は仔ラット肝臓の脂質合成・代謝に関与する遺伝子群の発現プロファイルの変化を誘引した。5)トリクロサンをニワトリ胚へ暴露し、雛肝臓のトランスクリプトーム解析による毒性発現の分子機構を探索した。その結果、トリクロサンは雌雛で脂質合成シグナル伝達を促進し、脂質代謝シグナル伝達を抑制することがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
理由は以下のように要約され、得られた結果は4年目の研究成果としては当初の計画以上に進展していると判断した。1)鳥類の肝臓を対象に、有機リン系難燃剤(PFRs)の定量に成功した。二次元ガスクロマトグラフ質量分析計の測定条件を最適化し、有機ハロゲン化合物の網羅的スクリーニング手法を確立した。さらに、沿岸環境に存在する40種のプラスチック製品から多様な有機化合物を同定することができた。2)イエネコを対象にPCBsのin vivo曝露試験を実施し、PCBsのトキシコキネティックス解析に成功した。また、血清中のメタボロームも解析し、影響も解析することができた。3)前年度までに確立したゼブラフィッシュ胚を用いたエストロゲン受容体(ER)リガンドのin vivoスクリーニング系を用いて、多種類のビスフェノール類(BPs)とPFRsのER活性化能を検証することができた。4)妊娠中の母ラットにビスフェノールA(BPA)を投与し、仔ラットへの影響とその作用機序の解明を試みたところ、BPAの胎児期暴露は肝臓では脂質合成・代謝に関与する遺伝子群の発現プロファイルの変化を誘引することがわかった。5)野生生物に残留することが知られているトリクロサンをニワトリ胚へ暴露し、雛肝臓のトランスクリプトーム解析による毒性発現の分子機構も解明することができた。
以下の研究を推進する。1)これまでに開発した医薬品類やリン系難燃剤・プラスチック含有有機化合物の分析法を環境試料や野生生物に適用し、汚染実態を明らかにする。また一部の化学物質に関しては、トキシコキネティクスも解析する。2)野生生物のエストロゲン受容体(ER)やペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)を発現させたin vitro実験系や、ゼブラフィッシュ胚を用いたin vivo実験系を利用して、より多くの化学物質のスクリーニングを試みる。さらにin silico解析で得られるリガンド-細胞内受容体相互作用関連パラメーターと、in vitroおよびin vivo実験系で得られる影響の関係から構造活性相関を導く。3)有機リン系難燃剤やビスフェノールA・トリクロサンについて、ニワトリ胚やラット新生仔を対象とした曝露実験をおこない、毒性影響の解明に取り組みたい。またこれら試料に、nano-LC・MALDI-TOF/TOFを用いたプロテオーム分析法を適用し、タンパク質発現レベルでの影響も解明する。4)PCBsを投与したイヌの肝臓のメタボローム解析を進め、すでに解析を終えているトランスクリプトーム解析の結果と併せて、影響を総合的に評価する。バルト海産サケの肝臓を対象に、トランスクリプトームおよびプロテオームの解析を実施する。同定された発現変動遺伝子については、パスウェイ解析をおこない、環境汚染物質蓄積濃度や各環境因子の変動によって受ける影響およびその作用機序を予測する。5)有機フッ素系化合物によるPPARの活性化能を感受性が異なるヒトとアザラシで比較し、感受性を規定するPPAR内アミノ酸残基の特定を試みる。またエストロゲン様化学物質に対して敏感な生物種と鈍感な生物種でERの感受性規定因子の同定を試みる。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (24件) (うち国際共著 11件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (86件) (うち国際学会 60件、 招待講演 7件) 備考 (5件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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