研究課題
腸内細菌と体内時計リセット効果との関係について調べた。腸内細菌は短鎖脂肪酸(SCFA)を産生することが知られている。これらのSCFAは種々のシグナルとして働き、肥満防止、免疫系の調節などに役立っている。そこで、SCFAの投与が、あるいはSCFAの産生増大を引き起こす水溶性食物繊維としてセルビオースのPer2::Lucマウス末梢体内時計の位相変容作用について調べた。その結果、SCFAやセルビオースの非活動期の2-3日間投与は、肝臓、腎臓の体内時計の位相を前進させた。従来より、末梢体内時計の食餌によるリセットには、インスリンシグナル系が重要であることを報告してきた。ところが、糖尿病になるとインスリンの分泌不足、インスリン耐性が出現し、シグナルとして使えなくなる。また近年広く認知された低炭水化物食やあるいは糖尿病治療食は炭水化物含量が少ないため、インスリンンのシグナルは使いにくい状態になっている。そこで、高タンパク質による末梢体内時計リセットにはどのようなシグナルが使われているかにつき調べた。その結果、タンパク質食ではインスリンではなくIGF-1の血中や肝臓での増大が確認された。ストレプトゾトシンによる1型糖尿病マウスモデルでも、IGF-1シグナルを利用した体内時計リセット作用を見出すことが出来た。髭のPer3、Rev-erba、Rev-erbb遺伝子発現リズムを指標として、朝型、中間型、夜型による違いを調べた。体内時計が遅れている週明けの月曜日と、週の終わりの金曜日で時計遺伝子発現リズムに変化があるか否かについて調べた。その結果、朝型は月・金のいずれにおいても、類似した波形でコサイン曲線を示した。一方、夜型と一部の中間型は月と金で大きく波形が異なり、振幅全体が低下する被験者が多数いた。つまり、夜型は体内時計が週を通してリズム性を失う可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
体内時計に対する化合物のスクリーニングも順調に進んでおり、機能性の食材に使われている、ノビレチン、タンゲリチンが体内時計の周期を延長させ、振幅を増大さ、さらに4‘デメチルノビレチンやN陳皮など実際の食材として直ぐに開発できるとこまで来ていることより、研究が順調に進んでいることになる。また、腸内細菌と体内時計関連の研究も急速に進めており、水溶性食物繊維がSCFAを介して末梢時計のリセットに寄与することを明らかにし、IFが高い雑誌に成果を発表できた。また、食事性の末梢時計リセット機構を糖尿病にまで進めた。1型糖尿病モデルマウスでは高タンパク食でもリセットでき、その時にIGF-1という全く新規なシグナルを使うことが分かった。これも論文発表ならびプレスリリースを行い、反響を得ることが出来た。さらに、ヒトの研究に必須である、髭を用いた体内時計モニター系を確立できたので、最近注目されている社会的時差ボケとの関連で研究し、論文発表予定(revised)であり、夜型化社会に警鐘を鳴らすことが出来た。このよう順調に研究成果を出すことが出来ている。また、ヒトの連続的血中モニター系の確立や糞便からpH測定、SCFA測定、腸内細菌叢の多様性解析などの方法論の確立ができたので、次年度はヒトの介入試験を大きく進めることが可能となった。また、ヒトの介入試験で、タンパク質の朝摂取と体内時計の位相の関係、筋重量や筋力との関係の予備試験もスタートしており、ヒト介入試験は強力に進めること可能となった。
本年度は最終年度であるので、まず、ヒトの介入研究を強力に進めていく。マウスの基礎研究で朝食のタンパク質でも体内時計よくリセットしたことと、朝食の疫学研究でタンパク質の摂取量が少ないことが分かっているので、これをヒトで実証研究する。特に大学生などは夜型化が進み、朝食欠食も多くいるので、朝食時に乳製品化合物を摂取させた。この髭でモニターしている体内時計遺伝子発現リズムと、唾液中のメラトニン、コルチコステロンのリズムと、食事調査・運動モニターとの相関を解析する。また、マウスの後肢懸垂あるいは、アキレス腱切除による筋肉の回復や肥大が朝食高タンパク質を与えることにより加速されること、また高齢者でも朝食にタンパク質食の摂取が少なく、夕食に多いので、高齢者を対象として、ヒトの介入試験で朝食あるいは夕食に高タンパク質を与えると、筋量、筋力、歩行速度、歩行数などがいずれの食事の介入で増大・回復するか調べる。ヒトを対象とした連続的血糖モニターと腸内菌叢の解析が確立できたので、水溶性食物繊維の難消化性デキストリン、イヌリン、さらにゴボウ、菊芋などを朝食時に摂取する群と、夕食時に摂取する群を用意し、いずれが、血糖値スパイク抑制にあるいは、腸内細菌叢の多様性維持に重要であるかを明らかにする。ノビレチンやその類縁体が体内時計機構に強く影響するので、これらの化合物のヒトの体内時計に対する作用を調べる。髭の毛母細胞には真皮の組織を同時に取ることになる。またコラーゲンの合成酵素や分解酵素の遺伝子発現にはリズム性が見られることから、これらの遺伝子発現をノビレチン類が制御する可能性を調べる。さらに、シフトワークや社会的時差ボケがあるヒトのコラーゲン代謝のリズム性のコントロールを通して、皮膚の不調を軽減する方策を見出す。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 9件)
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 8802
10.1038/s41598-017-09438-0
Scientific reports
巻: 7 ページ: 7348
10.1038/s41598-017-07845-x
Nutrition Research
巻: 43 ページ: 16-24
org/10.1016/j.nutres.2017.05.001
NPJ Aging Mech Dis
巻: 3 ページ: 16030
10.1038/npjamd.2016.30
Chronobiology International
巻: 13 ページ: 1-16
org/10.1080/07420528.2017.1338716
Frontier Neuroscience
巻: 11 ページ: 63
10.3389/fnins.2017.00063