研究課題
本研究ではRNA修飾が関与する生命現象を明らかにするとともに、RNA修飾病の発症機構を解明することを目的とする。ヒトのミトコンドリアは変則的な遺伝暗号を用いており、通常はIleをコードするAUAコドンがMetに暗号変化している。ミトコンドリアtRNAMetのアンチコドンには5-ホルミルシチジン(f5C)が存在し、この修飾によって、tRNAMetがAUGコドンのみならずAUAコドンもMetに解読することが可能になる。昨年度私たちは、代謝ラベルを用いた実験により、ホルミル基がメチル化とそれに続く酸化反応で形成されることを明らかにし、その最初の反応を担うメチル化酵素NSUN3を同定した(Nakano et al., Nature Chem Biol, 2016)。今年度は、水酸化と酸化反応を担う酵素ALKBH1を同定した。ALKBH1のノックアウト細胞の解析から、f5Cはミトコンドリアの機能に必須であることが示された(Kawarada et al., 2017)動物のミトコンドリアの翻訳系においては,しばしば普遍暗号から逸脱した変則暗号が用いられる。ウニやヒトデなど棘皮動物のミトコンドリアにおいては,通常はLysを指定するAAAコドンがAsnを指定するよう暗号変化している。私たちはキタムラサキウニのミトコンドリアからtRNALysを単離精製しRNA-MSにより解析したところ,アンチコドンの3’側の隣接部位に新規の修飾塩基であるヒドロキシ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ht6A)を見い出した。リボソームのAサイトにおけるtRNAのコドン認識能を評価したところ,この修飾塩基はAAAコドンへの結合能を抑制する役割のあることが判明した。以上の結果から,棘皮動物のミトコンドリアにおいてtRNALysが新たな修飾塩基を獲得することによりAAAコドンの暗号変化に寄与したと考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
RNA修飾の解析と生合成機構の研究に関しては、予想以上の成果が得られたと自己評価している。ミトコンドリアtRNAMetのf5C修飾の生合成機構が明らかになった成果(Nakano et al., 2016, Kawarada et al., 2017)は学術的価値が高い。代謝ラベルを用いた実験により、ホルミル基がメチル化と酸化反応で形成されることが明らかとなり、NSUN3およびALKBH1の発見につなげられたことは、本プロジェクトの特筆すべき成果であると言える。特にf5C修飾を欠損させると、ミトコンドリアの翻訳異常と機能低下が生じたという知見は、f5C修飾の生理学的な意義を初めて明らかにした成果である。私たちの論文がpublishされた後、半年の間に複数のグループから立て続けに関連論文がpublishされたこともこの分野の関心の高さと波及効果を実感している。また、動物のミトコンドリアの変則暗号の獲得に、新規のtRNA修飾であるht6Aが関わっているという発見(Nagao et al., 2017)は学術的価値が高い。特に短期間の間に化学構造の同定と機能解析を成し遂げられたのは、これまでに培ってきた当研究室の解析技術と経験によるものが大きい。
これまでに得られた成果をさらに発展させるとともに、新規RNA修飾構造の同定やRNA修飾酵素の探索に集中してプロジェクトを推進する。特に、外部環境の変化や細胞内メタボライトの濃度により、変動するRNA修飾についての解析に取り組む予定である。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件) 備考 (3件)
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