研究課題/領域番号 |
26220206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上杉 志成 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (10402926)
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研究分担者 |
西川 元也 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (40273437)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 化学プローブ / 細胞治療 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、合成小分子化合物でヒト細胞の基本的性質を操作・検出して、細胞治療の効率を高める。H27年度の具体的な実績は以下の4つ。 ①アノイキス阻害剤の創成と活用 細胞治療の問題は、アノイキス(細胞が浮遊した状態で誘導される細胞死)によって移植細胞が生着できないことである。H27年度の計画通り、新たなアノイキス阻害剤候補15種を設計、合成した。評価の結果、ヒトプライマリー細胞においてアノイキス抑制能の高い化合物を見出すことができた。動物への移植研究へと展開中。 ②心筋分化促進化合物の創製と理解 ヒト多能性幹細胞を心筋細胞に分化させるKY02111を以前発表した[Cell Rep, 2012]。KY02111の標的分子がタンパク質ではなく、内因性の低分子化合物である可能性も考えられた。H27年度はKY02111と化合物との相互作用を検討した。その結果、KY02111はBIOなどの特定の化合物と凝集体をつくり、それらの化合物の機能を選択的に阻害することが分かった。 ③ヒト幹細胞可視化化合物の創成と活用 多能性幹細胞を選択的に染色する蛍光化学プローブKyoto Probe 1 (KP-1)を以前発見した[Cell Rep, 2014]。解析の結果、多能性幹細胞と分化細胞では薬剤を排出するABCトランスポーターの発現が異なることと、KP-1のトランスポーター特異性が選択性の原因であると示唆された。H27年度は、KP-1の反応性プローブを合成し、この化合物とABCトランスポーターとの反応を検討した。 ④ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物の創成と活用 H27年度に、ヒト多能性幹細胞を選択的に死滅させるKP-1の毒性類縁体KP-C3-SN38を発見した。ABCトランスポーター選択性と毒性分子のメカニズムの両方が細胞選択性に重要であることを示した。論文投稿中。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は4つの目的すべてにおいて、おおむね順調に進展している。計画に変更はない。 ①アノイキス阻害剤の創成と活用 計画通り、ヒトプライマリー細胞に有効なアノイキス阻害剤を発見できた。 ②心筋分化促進化合物の創製と理解 生理活性化合物のメカニズム決定は通常困難を極める。H27年度はKY02111が小分子化合物と凝集体をつくるという複雑怪奇なメカニズムをつきとめた。 ③ヒト幹細胞可視化化合物の創成と活用 多能性幹細胞を選択的に染色する蛍光化学プローブKyoto Probe 1 (KP-1)を利用した反応性化学プローブの合成に成功した。 ④ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物の創成と活用 H27年度に、ヒト多能性幹細胞を選択的に死滅させるKP-1の毒性類縁体KP-C3-SN38を発見した。この化合物は優れた選択性を示し、ヒト多能性幹細胞の除去に利用されると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究は4つの目的すべてにおいて、おおむね順調に進展している。計画に大きな変更はない。 ①アノイキス阻害剤の創成と活用 H27年度、ヒトプライマリー細胞のアノイキスを阻害する化合物をみつけた。H28年度は、この化合物が細胞移植効率を高めるかどうかを動物で確認する。また、この化合物が他の細胞種にも効果的であるかを確認する。様々な細胞が混在した細胞サンプルをマウスから準備し、本化合物が効果的な細胞を単離し、同定する。 ②心筋分化促進化合物の創製と理解 H27年度、心筋分化促進化合物KY02111がある種の小分子化合物に選択的に結合し、凝集体を形成することをみいだした。KY02111は、生体内の内因性小分子化合物を標的としている可能性がある。H28年度は、KY02111が結合する内因性小分子化合物の同定をこころみる。また、タンパク質標的の探索も同時に行う。H28年度は、フォトアフィニティーラベルの実験手順を変えることで、さらに結合タンパク質候補を得て、検証する。 ③ヒト幹細胞可視化化合物の創成と活用 これまでの結果を踏まえて、H28年度に、さらに選択性の高い多能性幹細胞検出試薬をデザインする。様々な分化細胞での検証を行う。 ④ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物の創成と活用 H27年度に、ヒト多能性幹細胞を選択的に死滅させるKP-1の毒性類縁体KP-C3-SN38を発見した。KP-C3-SN38を出発点として、神経細胞と多能性幹細胞を分ける化合物をみいだす。候補化合物を設計・合成し、細胞レベルで評価する。
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