研究課題
本プロジェクトの目的は医薬品や農薬の開発ではない。合成小分子化合物の新しい利用法を提案する。合成小分子化合物でヒト細胞の基本的性質を操作・検出して、細胞治療の効率を高める。近未来、難病の細胞治療が実現化すると予想される。基礎細胞研究のツールであると同時に、一般国民が熱望する細胞治療に役立つ化合物を創製しその利用法の原理の証明を行う。具体的な目標は①アノイキス阻害剤の創成と活用②心筋分化促進化合物の創製と理解③ヒト幹細胞可視化化合物の創成と活用④ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物の創成と活用。①正常細胞をがん細胞のように転移させる化合物を設計し合成。アノイキス阻害剤にマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP2) を結合した分子は培養細胞でアノイキスの抑制と細胞の浸潤を促進した。分担研究者西川が動物での皮下移植実験を行い筋肉組織中への細胞浸潤を確認した。②KY02111がSQSの機能に及ぼす影響の解析。KY02111はSQSに結合するもののその古典的な酵素活性にはほとんど影響しないことが示された。一方KY02111はSQSに結合してTMEM43との相互作用を阻害することが確認された。TMEM43は核膜の維持に重要とされているがその役割は明確にされていない。TMEM43の変異は主に心臓疾患に見られるため心筋発生に関与している可能性が高い。③クロロアセチルKP-1とABCトランスポーターの共結晶の作成を試みたが良好な結晶は得られなかった。④ヒトiPS細胞や神経幹細胞などの幹細胞はアルカリフォスファターゼを細胞表面に発現している。SN38にリン酸基を導入し細胞透過性を抑えた化合物を合成した。この化合物はアルカリフォスファターゼによってリン酸基が除去されるときのみ細胞内に入り、多能性幹細胞や神経幹細胞を死滅させ、分化した神経細胞を純化した。Chem. Comm.に論文を発表した。
2: おおむね順調に進展している
目的③についてはクロロアセチルKP-1とABCトランスポーターの共結晶の作成が進んでいないが、目的③のそれ以外の計画研究は終了しており、大きな問題ではない。目的①②④については計画通りに進展しており、目的④はほぼ完結した。最終年度までに目的①②についても論文発表できると期待できる。
①アノイキス阻害剤の創製と活用 平成29年度までに正常細胞をがん細胞のように転移させる化合物を合成し、その効果を確認した。平成30年度は、この化合物―タンパク質複合体を用いて、多様な細胞種での生着効率や細胞機能への影響を解析する。論文を投稿し発表する。分担研究者の西川が動物での移植実験を行い、移植細胞の組織中での細胞浸潤を評価する。細胞移植で従来用いられてきた成長因子や免疫抑制剤との併用によって、生着効率と細胞機能維持で最も優れた細胞移植方法を見出していく。②心筋分化促進化合物の創製と理解 平成30年度はSQSやTMEM43をノックアウトした多能性幹細胞を樹立し、KY02111の心筋分化促進活性にどのような影響が生じるか検討する。平成30年度中の論文発表をめざす。③ヒト幹細胞可視化化合物の創製と活用 引き続きクロロアセチルKP-1とABCトランスポーターの共結晶を作成しX線構造解析を行う。④ヒト幹細胞を選択的に死滅させる化合物の創製と活用 平成29年度までにSN38にリン酸基を導入し、細胞透過性を抑えた化合物を合成した。平成30年度は、ヒトiPS細胞由来の神経混合細胞での試験をさらに行う。実際にリン酸SN38が増殖性の未分化細胞を取り除き神経細胞を純化するかを調べる。オーストラリアの研究グループ(シドニー大学医学部)と共同し、運動ニューロンを純化できるかどうかを調べる。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1074/jbc.RA118.002316
Chemical Communications
巻: 54 ページ: 1355~1358
10.1039/C7CC08686E
http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~uesugi/
http://www.rs.tus.ac.jp/nishikawa_lab/