研究課題
固体中の巨視的集団励起モードからなる量子ハイブリッド系を構築し,超伝導量子回路と異種量子系の間でコヒーレント制御を実現し,さらにマイクロ波のみならず光とのコヒーレントな相互作用も可能にするために,本研究では以下の研究を実施している.当該年度の成果は以下の通りである.これらは将来の量子情報ネットワーク技術の基盤となりうる成果である.①超伝導マイクロ波共振器と結合した超伝導量子ビットを用いて,マイクロ波共振器中の局在モードやマイクロ波導波路中の伝搬モードの上のマイクロ波光子の量子状態を制御・観測する手法を開発した.前者に関しては,共振器中の光子数に依存して量子ビットが受ける離散的acシュタルクシフトを利用して,共振器中の光子統計を測定できることを示し,それをスクイーズド真空状態にも適用した.後者に関しては,超伝導マイクロ波共振器と結合した超伝導量子ビットを駆動することで,着衣状態を利用したΛ型3準位系を実現し,単一光子検出器を実現した.検出効率は66%に達している.②強磁性絶縁体イットリウム鉄ガーネット(YIG)単結晶球中のスピンの集団励起の量子制御を目指した研究を行っている.すべてのスピンが空間的に均一に歳差運動するキッテルモードとマイクロ波共振器モードを結合し,1光子・1マグノンレベルの量子極限においてもコヒーレントな結合を示すことを確認した.さらにマイクロ波共振器中にYIG球と超伝導量子ビットを配置することで,超伝導量子ビットとマグノン励起の強結合を実現し,真空ラビ分裂を観測した.③窒化シリコン薄膜をマイクロ波共振回路と結合したエレクトロナノメカニクスにおいて,サイドバンド冷却手法を用いて機械振動子を基底状態近く(平均フォノン占有数約0.5)まで冷却した.実効温度に換算して約50μKに相当する.
2: おおむね順調に進展している
上記実績欄の記述のよう多くの成果が出ており,研究計画どおりに進行している.
超伝導量子回路に関しては,伝搬モード中のマイクロ波単一光子の量子非破壊測定,マイクロ波単一光子発生および時間モード量子ビットの生成などを通じて,超伝導量子ビットと伝搬モード量子状態のもつれ制御の研究を進める.強磁性体中のマグノン量子状態制御に関しては,マイクロ波共振器を介して超伝導量子ビットと結合したYIG単結晶球における時間領域での真空ラビ振動の観測を行い,さらにマグノンの非古典状態の制御と観測を目指す.マグノン励起と光の結合実験では,ファラデー効果やマグノンブリルアン散乱による相互作用の強度をより定量的に評価し,その増強方法を検討する.ナノメカニカル素子に関しては,マイクロ波共振器との結合を介したサイドバンド冷却と合わせて,光共振器との結合によるサイドバンド冷却による振動基底状態を実現し,それらの融合を図る.また実現した基底状態に対する量子状態制御を試みる.マイクロ波共振器を介したナノメカニカル振動子と超伝導量子ビットの結合実験も行う.強磁性体中のマグノンの量子制御とナノメカニカル素子中のフォノンの量子制御がともに予想以上にうまく軌道に乗りつつあり,実験装置のマシンタイムの制約が大きくなってきている.H27年度は研究加速のために,希釈冷凍機を1台購入し,実験の効率化を図る予定である.そのためにH26年度は研究費の支出を抑制し,H27年度に調整金を申請して装置の購入に充てる予定である.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (39件) (うち招待講演 10件)
Physical Review Applied
巻: 3 ページ: 034004-1-6
10.1103/PhysRevApplied.3.034004
Physical Review Letters
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