研究課題
固体中の巨視的集団励起モードを、単一量子レベルでコヒーレントに制御する手法の確立を目指して研究を行っている。当該年度の研究成果は以下の通りである。①強磁性絶縁体イットリウム鉄ガーネット単結晶球上の空間的に均一な静磁波モード(キッテルモード)にマグノンがいくつ励起されているかを、マイクロ波共振器を介して分散的に相互作用する超伝導量子ビットを用いて計数する方法を実証した。マグノン数に応じて量子ビットのスペクトルが離散的なシフトを受けることを利用するものである。②これまで強磁性絶縁体イットリウム鉄ガーネット単結晶球上のキッテルモードに注目して、超伝導量子ビットとのコヒーレントな結合および光とマグノンの相互作用を調べてきた。これを、より空間的に局在した高次の静磁波モードに拡張すべく、それらのモードとYIG球上の光のウィスパリングギャラリーモードの結合を調べた。また微小なピックアップコイルを入出力に用いて、YIG球上の高次の静磁波モードの空間分布を可視化することに成功した。③新たなハイブリッド量子系として、ピエゾ材料基板上の表面弾性波モードの研究に着手している。超伝導量子ビットとの結合に成功し、表面弾性波共振器を用いた量子ビットの観測を実現した。光と表面弾性波モードの光弾性相互作用に関しても実験を行い、表面弾性波共振器の空間モードの可視化や、光共振器モードを利用した結合の増大の観測を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
ハイブリッド量子系の構築を目指して固体中の集団励起モードを取り扱い、それらの量子状態を制御するという研究を幅広く展開してきた。強磁性体結晶球中の静磁波モードに対しては、世界で初めて、マイクロ波空洞共振器を介した超伝導量子ビットとのコヒーレントな結合を実証した。単一マグノンレベルの量子制御やマグノン数の計測も実現している。これは超伝導共振回路中のマイクロ波光子励起を除けば、固体中の集団励起モードのボゾンの数を計数した初めての例であり、他の追随を許していない。ナノメカニクスに関しても、超伝導空洞共振器との新しい効率的な結合方式を考案し、マイクロ波サイドバンド冷却により、機械的振動モードの基底状態への冷却を実現した。一方で、新たなハイブリッド量子系として、ピエゾ材料基板上の表面弾性波モードの研究に着手している。すでに超伝導量子ビットとの結合に成功し、表面弾性波共振器を用いた量子ビットの観測を実現するなど、当初目標の立案時には想定しなかった成果を得ている。超伝導量子回路における量子状態制御に関して、非常に新規性の高い独自の提案として、ドレスド状態を利用した人工Λ型3準位系が実現することを示した。これを利用した伝搬モードマイクロ波単一光子検出器を提案・実証し、66%という世界最高の量子効率を得ている。光の領域では、共振器オプトマグノニクスという新たな分野を開拓した。強磁性体中のスピン集団励起と光との相互作用を調べ、まだ効率は低いものの、動的ファラデー効果およびマグノン誘起ブリルアン散乱によるマイクロ波-光の相互変換を実現した。さらにYIG単結晶球のウィスパリングギャラリーモードを介したマグノン誘起ブリルアン散乱も観測し、スピンおよび軌道角運動量の保存則に起因した、ブリルアン散乱の非対称性・非相反性を新たに見出した。スピントロニクスや共振器ナノメカニクス分野からも注目を集めている。
1.超伝導量子回路を用いた非古典量子状態生成および観測技術の向上を図る。研究経過で述べたマイクロ波単一光子検出器の他に、ジョセフソンパラメトリック増幅器の評価、スクイーズド光の生成と検出などにも取り組んでいる。またオンデマンド任意波形単一光子波束の生成や、伝搬マイクロ波光子タイムビン量子ビットの生成、伝搬マイクロ波単一光子の量子非破壊測定の実現にも取り組んでいる。これらの要素技術は、マイクロ波量子光学の重要なツールになると考えられる。2.超伝導量子回路技術を用いて強磁性体マグノンの単一量子レベルでの量子状態制御と観測を実現する。マグノンの様々な非古典状態の生成と観測が目標となる。超伝導量子ビット回路で生成される様々な量子状態をマグノンへ転写し、それをもう一度量子ビットで読みだすことが必要となる。3.超伝導量子回路技術を用いてナノメカニカル素子の単一フォノンレベルでの量子状態制御と観測を実現する。同じフォノンでも、表面弾性波共振器中のフォノンを制御する方が容易であると考える。すでに超伝導量子ビットとのコヒーレントな結合に成功しており、周波数が高いためフォノンモードの冷却も容易である。超伝導量子ビットを用いた量子状態制御と観測は研究期間中に達成可能であると考える。4.マイクロ波とは大きくエネルギーの異なる赤外光(波長1~1.5 um)とマグノンやフォノンとのコヒーレントな相互作用の可能性を明らかにし、巨視的集団励起モードの量子状態を光の量子状態へ転写する方法を確立する。残り2年の間に強磁性体のマグノンモードとピエゾ材料基板上の表面弾性波モードと光の結合について重点的に研究を行う。極低温化での実験を立ち上げ、量子極限での量子状態転写への試みを行う。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 9件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 15件、 招待講演 19件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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