研究課題/領域番号 |
26220601
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 泰信 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90524083)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導量子ビット / ハイブリッド量子系 |
研究実績の概要 |
1. 超伝導空洞共振器中の超伝導量子ビットを量子系として、量子ビットの量子非破壊測定と高速フィードバック制御を用いた、マックスウェルの悪魔の実装を行い、フィードバックの寄与を含めた一般化されたJarzynski等式の検証を行った。また測定で得られた情報から系から取り出すことのできる仕事への変換効率も検証した。量子情報熱力学の実現の舞台としての超伝導量子回路の可能性を示した。 2. 超伝導空洞共振器中の超伝導量子ビットを用いて、マイクロ波単一光子の量子非破壊検出器の実証を行った。共振器に入射する光子は、重ね合わせ状態に用意された量子ビットの位相をフリップさせるものの、吸収されることなく反射される。直後に量子ビットの状態を観測することにより、光子の到来の有無を検知する。量子効率84%、暗計数確率1.5%という優れた性能を示すと同時に、反射された光子モードのトモグラフィにより、光子の非破壊性を検証した。また光子が反射する際の量子ビットとの相互作用はコヒーレントな2ビットゲートに相当し、量子もつれを生成することを、量子トモグラフィにより示した。 3. 表面弾性波共振器と超伝導量子ビットとマイクロ波共振回路からなるハイブリッド量子系において、超伝導量子ビットと表面弾性波共振器、超伝導量子ビットとマイクロ波共振回路それぞれの結合における協働係数を0.82まで高め、パラメトリック上方変換により、内部量子効率39%でフォノンからフォトンへの変換に成功した。またこれを利用して、表面弾性波共振器中の熱励起フォノンのノイズスペクトルをマイクロ波測定を通じて観測することに成功し、10mKの環境下で熱励起フォノン数約0.5に相当する微小なノイズスペクトルを精度よく検出することができた。ハイブリッド量子系が、高感度計測に適用可能であることを示す成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
伝搬マイクロ波単一光子の量子非破壊測定は、世界に先駆けた実証かつ世界最高の性能で実現したものであり、非常に大きな反響を得ている。またマックスウェルの悪魔としての量子フィードバック系の実現も量子情報熱力学の分野で注目を集めている。表面弾性波共振器と超伝導量子ビットを用いた、量子エレクトロメカニクスの研究では、超伝導量子ビットの非線形を活かした、パラメトリック駆動による相互作用を用いてフォノンとマイクロ波光子あるいは超伝導量子ビットとのコヒーレントな情報の受け渡しに目途をつけた。さらに表面弾性波共振器フォノンとオンチップの光リング共振器との相互作用の実験にも着手しており、マイクロ波-光間の量子インターフェイスの実現へ向けて進捗が見られている。
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今後の研究の推進方策 |
1. マイクロ波量子光学の基本ツールのひとつとして、マイクロ波タイムビン量子ビットの生成とその評価を行う。 2. 超伝導量子ビットと強磁性体単結晶球中のマグノン励起の自由度を、マイクロ波の空洞共振器中の仮想励起光子を介してコヒーレントに結合した系において、マグノンの量子制御技術を向上させる。マグノンモードに対して非古典状態生成とウィグナー関するトモグラフィの実現を目指す。そこからマグノンの緩和機構についての知見を得る。 3. 表面弾性波共振器中のフォノンと超伝導量子ビットが結合した系において、オプトメカニクスの分野で一般的な3次の非線形相互作用である輻射圧相互作用を実現し、フォノンとマイクロ波光子のあいだで高効率の変換を可能にする。またオンチップ光導波路や光共振器を表面弾性波共振器と結合し、光領域の光子と表面弾性波フォノンの間の光弾性相互作用を用いて、光子とフォノンの間のコヒーレントな結合を実現することを目指す。
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