研究課題/領域番号 |
26220602
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 公平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30276414)
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研究分担者 |
鹿田 真一 関西学院大学, 理工学部, 教授 (00415689)
原田 慶恵 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (10202269)
渡邊 幸志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (50392684)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 量子デバイス |
研究実績の概要 |
本研究では同位体操作技術に基づくダイヤモンドNVセンサーの性能向上と、ダイヤモンドセンシング装置系構築を有機的に組み合わせながら開発することで、競争が激しい本分野において世界トップレベルの研究を実施している。 量子センシングに不可欠な、NVセンサー量子操作用の広視野・高均一・高強度交流周波数発生用のアンテナ(Review of Scientific Instruments)、円偏光マイクロ波発生源(Applied Physics Letters)、ダイヤモンドNVセンサー作製技術(IEEE Transaction on Nanotechnology)、高密度・長寿命NVセンサー作製技術(Applied Physics Letters)などの開発を行い、それぞれカッコ内に示した専門学術誌に論文を発表した。関連研究として、ダイヤモンドを用いた量子センシングに必要な量子操作技術の開発をシリコンやゲルマニウムをプラットフォームとして実施した成果をNanotechnology, Physical Review Letters, Physical Review B(3通)に国際共著論文として発表した。 さらに、国際会議招待講演を、2016 欧州Materials Research Society Spring Meeting(5月リール、フランス)、QTech2016(6月北京)、7th International Symposium on Control of Semiconductor Interfaces(6月名古屋)、International School on Spintronics and Spin-Orbitronics(12月福岡)、2017 Sweden-Japan International Workshop on Quantum Nanophysics and Nanoelectronics(3月横浜)から依頼されたことから、本プロジェクトに対する世界の関心の高さを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NV量子センサーの感度はコヒーレンスで決まるため100マイクロ秒あればNV から測定対象の距離(すなわちダイヤモンド表面からのNVの浅さ)は5nm、10マイクロ秒では2-3nm程度が目安となる。この単一極浅・長コヒーレンスNVペア作製のために2種類の手法を採用した。 1つ目はプラズマCVD成長中に、天然存在比が極めて低い15N同位体を添加することで、ダイヤモンドバルク中に自然に存在する14NVと、表面近傍に意図的に添加された15NVを見分けるものである。系統的な実験を行い、表面から5nm以内の浅さにコヒーレンス時間が10μ秒以上の単一NVが生成できることを明らかにした。このコヒーレンスはマイクロ波パルス手法で100μ秒以上に延長できるために当初目標のコヒーレンス獲得に成功した。 2つ目は、ダイヤモンド表面上に意図的に堆積したSiO_2薄膜をとおして窒素イオン注入を行い、ダイヤモンド表面付近に15NVを集中的に分布させる手法の開発である。表面SiO_2薄膜の厚さtを0から72nmまで増やし、その膜をとおして15Nイオン注入すると、0nmでは試料全面からNV発光が確認されるのに対し、72nmでは単一NVからの発光が得られた。さらに系統的に単一NVの電子スピン共鳴を実施したところ、13Cと15N核スピン相互作用に基づくスペクトルがあるNVに対して得られた。ダイヤモンド内部とはいえ、単一NV電子スピンを用いて、単一窒素核スピンと、単一炭素核スピンを検知するという当初目標を達成した成果である。 また複数のNV群をピクセルとしてイメージングに応用する目的のためにも良い試料を作製する必要がある。そこでCVD成長を最適化し、1e17/cm^3の超高濃度のNVにおいて共鳴線幅200kHzという画期的なセンサー試料を作ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
NVセンサー直上のダイヤモンド表面に原子等を置き、単一原子核スピンにより生じる磁場(磁力線の向きと強さ)をNVで測定する。昨年開発したアンテナでNV電子スピンをパルス操作し、現在開発中の3次元イメージングプロトコールで原子核スピンの向きや分布を測定する。その向きをNVペアの電子スピンで測定することで、単一核スピンNMR測定が達成できる。 イメージングでは、多数のNVピクセルを用いて、ダイヤモンド上におかれた測定対象の磁場・電場・温度マッピングが撮影する。 一方、単一核磁場と思われる信号を得たとしても、それが実際に目的とする核種によるものかを明確に示す事は一筋縄ではいかない。この問題を解決するために今後はダイヤモンド試料から13C同位体を徹底的に排除するうえ、場合によっては液体ヘリウム温度に冷やしてNV電子スピン共鳴の線幅を狭めるなどの工夫を重ねながら、最終目標の室温における量子センシング動作に必要なNV電子スピンパルス操作方法を開発していく。 バイオセンシングに関しては、NV中心の6つの励起状態スペクトルを解析することで周囲電場の変化を捉える方法に着目し、微細加工ダイヤに生きた細胞をはめ込むことにより、通常のセンサーでは検知できない微小電場を検知することを目指す。溝付きダイヤモンドサンプルを作製し、その中に膜タンパク質を発現させたリポソームあるいは生細胞を置き、様々な刺激に対する電位応答の時間変化を計測することを目指す。ただし、現時点での問題は、1回がミリ秒オーダーのランダムなイオンの出入りに対して、十分に速い測定がNVセンサーできるかが不明なことである。イオンの出入りのようにこれまで測定されていない現象を対象とするため、どのような時間オーダーが必要かについて系統的に調べる実験を重ねる。
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