研究課題/領域番号 |
26220604
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安藤 和也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30579610)
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研究分担者 |
牧 英之 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10339715)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究は、スピン流・磁化の動的交換相互作用とスピン軌道相互作用によるスピンー電荷変換を組み合わせることで、空間対称性の低い金属へテロ接合におけるバルク・界面・表面スピン伝導物性の開拓と、絶縁体/金属界面において発現するマグノンから伝導電子へのスピンキャリア変換を用いた非線形スピントロニクス効果の学理構築を行う。スピン流伝導・変換はあらゆるスピンベースの電子物理技術の基盤であり、本研究推進により体系的物理を構築することで、次世代省エネルギー電子技術に貢献できる。H28年度は、電流-スピン流変換の新原理開拓による超巨大スピンホール効果発現へのルートを明らかにした。ターゲットとしたのは空間対称性の低い系であり、金属へテロ接合における界面スピン軌道相互作用を用いることで高い電流-スピン流相互変換効率が実現されることを明らかにし、更に、非磁性金属界面におけるRashbaスピン軌道相互作用と拡散スピン流を介した新原理の磁気抵抗効果観測へと至った。このような成果は、バルクスピン軌道相互作用のみならず、界面スピン軌道相互作用が多様な物理現象を発現する可能性を示すとともに、本現象をバルク効果と併用したスピントロニクス素子設計をも可能とするものである。更に重要な成果として、金属の酸化というこれまでにないシンプル且つ新たなアプローチにより、バルクスピンホール効果が数桁増大する新現象をCuにおいて明らかにした。本成果は、スピン軌道トルク生成にはPtをはじめとする貴金属が必須であるというこれまでの常識を根底から覆すものであり、スピントロニクス材料選択の幅を劇的に広げるとともに、既知の現象では到達困難な変換効率実現へのルートを拓いた。これは研究計画時の期待を大きく上回る成果であり、NHKのテレビニュースで報道されるなど、社会的にも大きな反響があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヘテロ界面におけるスピン変換は、近年発見の相次ぐスピントロニクス現象の殆どで重要な役割を担っており、この本質的理解が希求されてきた。本研究により、スピン変換における非線形マグノン散乱及びマグノン寿命の重要性が初めて明らかとなったことは、このような界面スピン変換の体系的理解への道を初めて拓くものである。この進展により、非線形領域まで含めた伝導電子スピン流-マグノンスピン流間の動的スピン交換の一般原理解明が現実的なものとなった。界面スピン変換に関する上記成果のみならず、スピン軌道相互作用による電流-スピン流変換についても、界面Rashba効果による相互変換・新原理磁気抵抗効果の観測と、金属の酸化によるバルクスピンホール効果の増大現象の発見という顕著な成果が得られた。半導体スピントロニクスがRashba効果の制御を基盤としてきたのに対し、金属スピントロニクスにおける界面Rashba効果の重要性が明らかになってきたのはごく最近である。本研究により明らかとなった新現象により、非磁性金属へテロ界面における巨大Rashba効果をベースとしたスピントロニクスの新たな展開が期待される。また、電流-スピン流間の変換は、スピントルク磁気メモリーやスピン流を介した熱電素子をはじめとして、あらゆるスピントロニクスデバイスの本質的要素である。従って、金属酸化という新たなアプローチにより見出されたスピン軌道トルクの増大現象は、物質中のスピン伝導物性における酸化の重要性を明らかにしただけでなく、スピントロニクス素子設計の新たなルートを拓くものである。 以上のことから、当初の計画を超える進展があったと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、当初の研究計画の期待を大きく上回る研究成果が得られている。残りの研究期間では、この一連の成果を基に、スピン伝導物性の更なる開拓と電流-スピン流変換の制御・増大へ向けた研究を推進する。逆スピンホール効果を用いたこれまでの研究により、金属/磁性絶縁体接合における非線形スピン流変換現象を統一的に理解するルートが拓けた。残された課題は、この研究の中で明らかとなった、マグノンモードに系統的に依存したスピン流生成効率の物理模型構築である。この予想外の発見を理解するために必要となるのは双極子相互作用を制御した系におけるスピン変換の定量データであり、本研究では膜厚の異なる磁性絶縁体におけるスピン流生成のモード選択的測定によりこれを明らかにする。この系統的データからスピン流生成効率のマグノンモード依存性を議論することが可能となり、交換相互作用極限の短波長マグノンが示す普遍的生成効率と双極子相互作用による生成効率の変調原理が明らかとなる。また、金属の酸化によるスピン軌道トルク効率増大現象の一般性を明らかにし、微視的メカニズムを解明するためには、制御性の良い金属試料において、スピン軌道トルク効率と酸化濃度の系統的データを収集することが必須である。そこで本研究の残りの期間では、スピン軌道トルクの増大現象が初めて観測されたCuに加え、スピン軌道トルク生成源としてスピントロニクスで最も広く用いられているPtにおけるスピン軌道トルク効率の酸化濃度依存性を明らかにする。
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