研究課題/領域番号 |
26220607
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
東 俊行 国立研究開発法人理化学研究所, 東原子分子物理研究室, 主任研究員 (70212529)
|
研究分担者 |
中野 祐司 立教大学, 理学部, 准教授 (20586036)
久間 晋 国立研究開発法人理化学研究所, 東原子分子物理研究室, 研究員 (50600045)
田沼 肇 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (30244411)
|
研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 量子ビーム / 原子分子物理 |
研究実績の概要 |
温度4.2 Kで動作する静電型極低温イオン蓄積リング(RICE)は,蓄積時間内に分子イオンの振動回転状態を極低温まで冷却することが可能である。1昨年度からN2O+分子イオンを蓄積し波長可変色素レーザーによる時間分解回転分光実験を開始した。本年度は,遂に1000秒に至るまでの回転スペクトルの取得に成功した。 入射ビームビームラインには,最適構造をもつ円筒型ビーム偏向器を開発導入した。 また,0.4Kの超流動He液滴に分子イオンを取り込むことを目指した装置開発にも取り組んできた。本年度は液滴に中性分子であるフタロシアニンを内包させ、パルスOPOレーザー,集光システム,電子増倍管から構成されるレーザー誘起蛍光による高感度な分光観測法を開発した。これより,内包分子が回転温度も1 K以下に冷却されていることが確かめられた。 中性粒子ビームを合流導入することも本研究の目標の一つである。本年度はセシウムスパッターイオン源を立ち上げ数マイクロAの負炭素原子イオンの輸送を達成した。光電離用の大出力半導体ダイオードレーザーアレイでは角度拡がり0.5度以下,ビーム系1.2mmまで抑え込むことに成功した。 またエネルギー分散型粒子検出器に関して,超伝導遷移端センサー(TES)をマイクロカロリメータとして中性粒子検出へ応用するプロジェクトを推進した。極低温用熱輻射シールドや赤外メッシュフィルター設置などのR&Dを行い,実際にイオンビームを用いた照射試験まで実施することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的には,順調に研究が進展したと考えられる。静電型極低温イオン蓄積リング(RICE)本体の運転が順調で問題が生じなかったことも寄与しており,目標としている開発や実験に関して,以下のような進捗が見られ,いくつかの困難も乗り越えることが出来た。 [分子回転分光]: 目標としていた1000秒に至るまでのRICE周回分子イオンの回転分光スペクトルの取得に成功した意義は大きい。とくに繰り返す測定において毎回1000秒を必要とする長時間観測の問題が生じたが,これを導入レーザーの高繰り返し化によって切り抜けたこと,微弱信号を観測するために可能な限りのバックグラウンド信号低減化に努めたことが大きい。 [入射イオン用冷却トラップ系]:新しい円筒型ビーム偏向器を開発導入しため,イオントラップから引き出し加速したイオンバンチを効率よくRICEへイオンを導けるようになった。 [He液滴内包分子]: He液滴のサイズを大きくするために数年を要したが,今年は内部に分子を取り込み,レーザー誘起蛍光観測を達成するまで研究が急速に進んだ。その結果,1K以下と期待通りの冷却分子が得られたことも朗報である。 [中性粒子合流]: 最大の難関であった大強度レーザーの角度広がりや径を制御することができるようになった。これでほぼ負イオン中性化への道筋が拓けたと考えられる。 [中性生成物エネルギー検出装置]:極低温TES型カロリメータに切り替えることによって,初めて期待通りの分解能で実際に粒子エネルギーを観測することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
小型分子イオンの分光に関しては, 観測された1000秒に及ぶ分子イオンの冷却過程に対して理論やシミュレーションを援用して挙動の解析を進めることにより,環境からの摂動が抑制された孤立量子多体系の脱励起過程のダイナミクスに迫りたい。そのためには,2原子分子イオンを含めた他の小型分子イオンに関しても同様も実験を行い,比較を行いたい。そこでは,予め予備冷却イオントラップで冷却したイオンと直接導入したイオンの挙動を比較することや, RICE内でレーザー加熱を行うことで,詳細な脱励起ダイナミクスを追跡する。鍵となるのは,衝突過程が抑制された環境下で,禁制準位状態へ蓄積する過程であり,レーザーによるこの準位から特定の許容準位への制御を仕上げとして試みたい。 イオン蓄積リングに中性粒子ビームを合流導入することにより,衝突相互エネルギーにおいて低速領域のイオン中性反応の反応断面積を測定する実験は,ほぼ準備段階の開発が終了あるいは目処がついたため,中性炭素ビームをRICEへ導入する段階まで達成できればと期待する。また,反応による中性生成物を識別するためのエネルギー分散型粒子検出器は,超伝導遷移端センサー(TES)の動作確認に成功しており,いよいよRICEを周回する分子イオンを起源とする崩壊中性生成物検出という本実験を着実に成功させたい。 He液滴内包分子ビームの開発に関しては,次のステップとしてHe液滴内でレーザー照射によるイオン生成をその検出法開発とともに達成したい。これに成功するとRICEへのヘリウム液滴内包分子ビーム導入が,極めて大きな現実性を帯びてくると期待される。
|