研究課題/領域番号 |
26220701
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
日比 孝之 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (80181113)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | グレブナー基底 / 二項式イデアル / 凸多面体 / 実験計画 / マルコフ基底 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、第8回日本数学会季期研究所「グレブナー基底の50年」(平成27年7月1日 ~ 7月10日;ホテル日航大阪(大阪市中央区西心斎橋))を開催した。グレブナー基底の誕生50年を記念し、創始者 Bruno Buchberger を含む23名の招待講演者による講演を通し、グレブナー基底の現状を探り、解決すべき諸問題を提唱した。 参加者総数は93名(内、海外13ヶ国から47名)である。以下、平成27年度の主な研究成果を列挙する。 (実験計画)Box--Behnken計画の主効果モデルのマルコフ基底は、D型根系のトーリックイデアルの生成系に対応する。D型根系に付随する格子凸多面体の単模三角形分割は M. Beck らにより構成されている。その単模三角形分割が正則であるとの作業仮説の下、D型根系のグレブナー基底を発掘することに成功した。更に、そのマルコフ基底を使い、実際のデータをマルコフ連鎖モンテカルロ法により検定した。歴史上、3水準の一部実施計画をマルコフ連鎖モンテカルロ法により検定した仕事は存在せず、本研究はきわめて独創的である。しかも、格子凸多面体の単模三角形分割から逆解きの着想によりグレブナー基底を発掘できたことは、グレブナー基底の代数計算の展開への扉を開く開拓的な仕事である。 (凸多面体)格子凸多面体の対 (P,Q) のΓ対とΩ対と呼ばれる概念を導入し、グレブナー基底の理論を武器に、正規な反射的凸多面体の斬新な類を生産するための独創的な理論を展開した。とりわけ P と Q が順序凸多面体、鎖凸多面体、有限グラフの stable 多面体などのときを探究し、或る条件の下、それらのΓ対とΩ対が正規な反射的凸多面体になることを示した。その系の一つは、次元 d の順序凸多面体と鎖凸多面体は、必ず次元 d+1 の正規な反射的凸多面体の facet となることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
凸多面体の組合せ論と統計数学の魅惑的な相互関係(Gel'fandの思想)を発掘することができた。実際、 (a)D型根系の格子凸多面体の単模三角形分割から、可換代数のトーリックイデアルの理論を媒介とし、Box--Behnken計画の主効果モデルをマルコフ連鎖モンテカルロ法により検定するためのマルコフ基底が発掘できたことは、格子凸多面体の三角形分割の組合せ論と実験計画の盤石な連携を樹立する金字塔である。しかも、3水準の実験計画であるBox--Behnken計画をマルコフ連鎖モンテカルロ法により検定したこと、及び、単模三角形分割から逆解きの着想により3次の二項式イデアルを含むグレブナー基底が発掘されたことは、両者とも、歴史的な快挙である。 (b)有限分配束の花束(bouquet)の概念を導入し、順序凸多面体のトーリック環の代数構造(algebra with straightening lawsと呼ばれる構造)を駆使し、平面的な分配束の花束に付随するA分布のパフィアン系の基底のきわめて具体的な記述に成功したこと、及び、順序凸多面体と鎖凸多面体の組合せ論、特に、有限半順序集合の線型延長の計算から、ホロノミック勾配法を適用することが可能な統計分布の、斬新な、豊富な類を提唱することができる舞台を設定したことは、凸多面体と有限半順序集合の代数的組合せ論が、A分布のパフィアン系の計算と理論にきわめて有効であることを披露する独創的な研究である。その波及効果は凄まじく組合せ論とA分布の相互関係を深化させ、凸多面体論の現代的な潮流の誕生を育む。 以上の結果、研究の展開としては、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、京都大学数理解析研究所のプロジェクト研究「グレブナー基底の展望」を実施する。平成29年度は、国際会議「可換代数の展望」(http://commalg2017.jp)を開催(7月10日から14日;ホテル日航大阪)する。平成30年度は、6月から8月の内の4週間、凸多面体のワークショップを開催し、欧米諸国から、凸多面体を研究している大学院生(約30名)を阪大情報科学研究科に招聘し、世界的な規模で、凸多面体論の若手研究者を育成する土壌を育む。以下、研究面における今後の具体的な戦略を列挙する。 (実験計画)Box--Behnken計画の二次の交互作用を考慮した二次モデルの当てはまりをマルコフ連鎖モンテカルロ法による検定を実施するためのマルコフ基底を発掘する。一般論では、その作業は困難であるから、まず、二次の交互作用が一組、あるいは、二組のとき、そのマルコフ基底がどのような構造をしているかを探る。まったく一般の状況で、Box--Behnken計画の二次の交互作用を考慮した二次モデルのマルコフ基底が発掘されたとすると、実験計画に大きな影響を及ぼすことは必至で、その波及効果は絶大である。そのような背景を考慮すると、本課題の遂行は急務である。 (二項式イデアル)懸案の予想「ポリオミノに付随する二項式イデアルは根基イデアルである」及び「任意のisotonian代数は正規である」の肯定的な解決に挑戦する。両者に共通する技巧は、スクエアフリーなグレブナー基底の存在を示すことである。しかしながら、両者とも、現状では、肯定と否定の両面から挑戦することが不可欠である。否定的な面からの議論の際は、計算機実験が必須であるが、両者とも、計算量が膨大であり、計算ソフトの飛躍的な進歩、特に、変数の個数が大きな二項式イデアルのグレブナー基底の高速計算を可能にする計算ソフトの開発が急務である。
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