研究課題/領域番号 |
26220701
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
日比 孝之 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (80181113)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 可換代数 / 凸多面体 / グレブナー基底 / 計算代数統計 / A超幾何方程式系 / トーリック環 / トーリックイデアル / 有限分配束 |
研究実績の概要 |
平成28年度は京都大学数理解析研究所のプロジェクト研究「グレブナー基底の展望」を組織し、3件のRIMS研究集会(Application of Algebraic Methods to Statistics;Algebraic Statistics and Symbolic Computation;Computational Commutative Algebra and Convex Polytopes)とRIMS合宿型セミナー(Binomial Ideals and Algebraic Statistics)に加え、外国人客員研究員による連続講義、及び、隔週セミナーを実施した。欧米諸国から50人の外国人研究者を招聘し、可換代数、代数幾何、凸多面体、統計数学、代数解析などの諸分野から、グレブナー基底の研究に携わる研究者が結集し、グレブナー基底の多様な側面の相互理解を深め、今後の展望を探った。 以下、研究面における主要な結果を列挙する。 (凸多面体)理想グラフの安定集合凸多面体から、整分割性を持つ中心的対称な反射的凸多面体を構成することに成功し、その結果、理想グラフの安定集合凸多面体が中心的対称な反射的凸多面体の極大面であることが判明した。更に、空単体の膨らまし多面体の正則単模三角形分割の存在を探究し、次元 2k-1 の空単体 P のδ多項式が 1+(m-1)t^k のとき、kP が正則単模三角形分割を持つための必要十分条件が得られた。 (可換代数)canonical module の跡の研究を展開し、nearly Gorenstein 環の概念を提唱し、その代数的な諸性質を議論した。特に、有限分配束 L = J(P) に付随するトーリック環(いわゆる Hibi 環)が nearly Gorenstein 環となるための P に関する条件を発掘することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本基盤研究(S)の研究目的は、統計と計算を戦略とし、二項式イデアルの可換代数と格子凸多面体の理論の現代的な潮流を誕生させるとともに、その潮流を統計と計算へフィードバックすることである。その具体的なシナリオを申請書類(平成25年10月作成)に記載している。そのシナリオは、平成26、27、28年度の研究から、概ね、達成されていると判断する。以下、その根拠を列挙する。 第1の根拠は、Gel'fandの思想の実現、すなわち、凸多面体の組合せ論と統計数学の魅惑的な相互関係を発掘することができたことが挙げられる。 第2の根拠は、順序凸多面体の研究の革新的な潮流を誘なったことが挙げられる。1970年代から、順序凸多面体は、代数、幾何、組合せ論の観点から研究が継承されている。本研究が誘なった潮流は、順序凸多面体の従来の研究の守備範囲を遥かに越える独創的なものである。特に、順序凸多面体、鎖凸多面体、単体的複体などから、グレブナー基底と単模三角形分割の理論を媒介とし、正規な反射的凸多面体を構成する独創的な手法を開拓した研究は、正規な反射的凸多面体の斬新な類を提唱し、正規な反射的凸多面体の理論の飛躍的な発展の礎を築く。 第3の根拠は、二項式イデアルの斬新な類の発掘に成功し、二項式イデアルの世界の肥沃な土壌を開墾したことが挙げられる。 第4の根拠は、国際研究集会「グレブナー基底の50年」(平成27年度)、京都大学数理解析研究所のプロジェクト研究「グレブナー基底の展望」(平成28年度)の両者が成功裏に終了したことが挙げられる。その結果、我が国がグレブナー基底の研究を牽引していることを欧米諸国の研究者が認識し、我が国と欧米諸国との国際共同研究の遂行が、一層、加速された。
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今後の研究の推進方策 |
国際会議「可換代数の展望」(The Prospects for Commutative Algebra)を開催する。開催期間は、平成29年7月10日から7月14日、開催場所はホテル日航大阪である。本国際会議には、欧米諸国から、著名な研究者とともに、新進気鋭の若手研究者が招聘される。更に、平成29年9月、ドイツの Oberwolfach 数学研究所において、研究代表者らが組織委員を務めるミニワークショップ「格子凸多面体」が開催され、格子凸多面体の分類理論の最近の展開などが報告、議論される。 以下、今後の研究の展開の戦略を列挙する。 (実験計画)Box--Behnken 計画の二次の交互作用を考慮した二次モデルの当てはまりをマルコフ連鎖モンテカルロ法による検定を実施するためのマルコフ基底を発掘する。一般論では、その作業は困難であるから、まず、 二次の交互作用が一組、あるいは、二組のとき、そのマルコフ基底がどのような構造をしているかを探る。一般の状況で、Box--Behnken 計画の二次の交互作用を考慮した二次モデルのマルコフ基底が発掘されたとすると、実験計画に大きな影響を及ぼすことは必至で、その波及効果は絶大である。 (凸多面体)有限グラフの安定集合多面体に関連する格子凸多面体の基礎理論の研究を踏襲し、グレブナー基底の理論を媒介とし、そのような格子凸多面体の反射性、正規性と有限グラフの理想性の相互関係などを探究する。更に、順序凸多面体の componentwise dilation の反射性と正規性に関する研究を開始する。 (二項式イデアル)有限分配束に付随するトーリック環の一般化である、isotonian 代数K[P,Q] の研究(但し、PとQは有限半順序集合)を踏襲し、K[P,Q] が正規である、という懸案の予想の肯定的な解決に挑戦する。
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