研究課題/領域番号 |
26220705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251602)
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研究分担者 |
田中 香津生 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (20780860)
川村 広和 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50586047)
井上 壮志 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80637009)
青木 貴稔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30328562)
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70345073)
羽場 宏光 国立研究開発法人理化学研究所, その他, 研究員 (60360624)
伊藤 正俊 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (30400435)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 素粒子実験 / 電気双極子能率 / レーザー冷却重元素 / 光格子 / 原子干渉計 |
研究実績の概要 |
重元素では、相対論効果により、最外殻電子のEDMが格段に増幅されることに着目して、電子EDM探索による物質・反物質対称性の破れ、反物質消失機構の解明の実験手法を確立する。特に原子量最大のアルカリ原子・放射性同位元素であるフランシウム(210Fr)に対して、核反応によるFr生成、輸送、オンラインレーザー冷却・トラップ、原子干渉計によるスピン歳差周期測定の一連の技術を開発する。今年度は、Fr生成用の表面電離イオン源の改造・高度化を行い、その性能評価を進めた。これまでのイオン源は、引き出し電極の下流にビーム収束用アインツェルレンズを導入した複雑な構造となっており、融解標的からの金蒸気が電極にコーティングされるため、リーク電流が時間とともに大きくなり、安定した引き出し電圧の印加が困難になり、またビーム輸送パラメータの最適化を行っても、初段の偏向電極で相当数のフランシウムが損失される欠点があった。そこで、これらの欠点を克服するために、標的の周辺にパラボラ型の収束電極を設置し、かつ、イオン光学シミュレーションにより、ビーム輸送効率を向上させる収束電極の配置を最適化することで、下流の中性化装置に至るFr収量の増強を実現した。今回、Frには安定同位体が存在しないため、ガラスセル中のヨウ素分子を飽和吸収分光により信号を観測し、それをレーザー光の周波数安定化の信号として用いた。ヨウ素分子には広い波長範囲にわたって豊富な回転-振動準位が存在し、また電気四重極能率があるため超微細構造が存在する。Frの共鳴遷移718.2164 nm付近にもヨウ素の回転-振動準位が存在し、その信号の観測を行った。これによりP(78) 1-9という準位がFrの共鳴波長から一番近い準位であり、およそ3 GHz程度離れていることを確認した。この手法を用いて、オンラインでのFr-MOTによるトラップに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大強度レーザー冷却Fr源の実現、光格子原子干渉計の開発、そして高感度共存磁力計の導入の3つを統合することで、世界最高感度の次世代EDM探索技術を確立するものである。4年目の計画は、これらの3つの構成要素の技術的見通しを立てることであり、すべて、予定通り、推敲された。冷却Fr源は、表面電離イオン源の改造・高度化と、レーザー冷却・トラップ用光源に関して、周波数安定化およびポンピング光とリポンプ光のオフセットロックの手法を開発・確立したことで、MOT中でのFrトラップに成功した。また、安定原子Rbを用いた一次元光格子の実現を確認し、前年度までに確立しているMOT開放系でのラムゼー共鳴による原子干渉計の技術を導入することで、光格子原子干渉計の見通しをつけた。さらに、高感度共存磁力計を構築するために、Rbの2種の同位体を同時にトラップして、変動磁場とともに、光格子中の磁場・電場変動によるエネルギーシフトを分離して各々モニターする技術の開発を進め、2種原子の同時トラップを確認し、今後の磁力計開発に見通しを立てている。 これらの構成要素の開発が順調なこと、そして、各々の性能評価が進み、所定の性能実現に向けて、改良・高度化の対策も明瞭に検討が進んでいることから、表記の評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けて、大強度レーザー冷却Fr源、光格子原子干渉計、共存磁力計の3種の統合と、総合動作試験、EDM測定の系統誤差の評価、そしてEDM測定の着手を進める。 大強度レーザー冷却Fr源は、Frイオン源、ビーム輸送系、中性化装置、MOTの4つの構成要素があるが、このうち、トラップFr原子数の効率を支配しているのは、電子再結合させる中性化装置である。そこで、この中性化装置周辺の加熱機構、真空度改善を進め、所定のFr-MOT個数を実現する。また、一次元光格子による原子干渉計は、内部に高電圧印加用電極を設置し、Rbを用いたラムゼー共鳴手法によるEDM測定を行って、系統誤差の評価を進める。さらに、MOTでの蓄積Fr原子数が所定の数に達したあと、Frによる光格子を実現し、Fr-EDM測定の最終確認を行う。並行して、Rbによる高感度磁力計の開発を進め、Fr光格子に、Rb を導入し、共存トラップ、および、異種原子トラップによる原子干渉計によるスピン歳差周期測定の測定精度を評価し、EDM測定に着手する予定である。
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備考 |
研究代表者が2016年に東北大・CYRICから東大・CNSへ異動したため、2つのHPが準備されている。本務の東大CNSのHPは、現在、立ち上げ中。前職の東北大CYRICは、現在、客員教授・名誉教授として継続して活動を行っており、このHPもCYRICでの加速器施設に関連した内容を発信している。
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