研究課題/領域番号 |
26220706
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯嶋 徹 名古屋大学, 現象解析研究センター, 教授 (80270396)
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研究分担者 |
早坂 圭司 名古屋大学, 現象解析研究センター, 准教授 (40377966)
居波 賢二 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50372529)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 加速器 / 粒子測定技術 / 電子・陽電子 |
研究実績の概要 |
本研究では、世界最高輝度を誇るKEK Bファクトリー実験を40倍に増強したスーパーBファクトリー実験において、タウレプトンに注目した独自の研究を推進する。平成27年度においては、以下の成果が得られた。 【物理解析】タウレプトンを終状態にもつB中間子の崩壊(タウオニック崩壊)に関して、Belle実験の全データを用いて、セミレプトニックタグ手法という新手法を用いたB→D*τ ν 崩壊の崩壊分岐比の測定結果を発表した。一方、Belle II実験に向けたタウ崩壊の研究では、約1/ab相当のシミュレーション事象を用いて、kaon検出時にpionによる背景事象が深刻になる解析ではS/N比がBelle I実験に比べ1.5~2倍程度向上することを見た。 【TOP検出器】Belle-II測定器に必要な16台のTOPカウンターの建設を行った。MCP-PMTの調達を完了するとともに、将来に向けて高い放射線耐性をもつMCP-PMTの製造手法を確立した。約250cm長の石英輻射体を製作するうえで必要な石英接着ステージを開発し接着作業をほぼ完了した。輻射体をハニカムパネルで製作した支持構造体に封入して15台の測定器を製作し、レーザーパルスや宇宙線を用いてデータ取得を行い、性能評価できたものをBelle-II測定器にインストールを行った。 【データ解析装置】計算機では、CPUを2.1倍に増強した。Disk記憶容量は200TBを維持している。2015年夏から約半年間にビーム状況によるバックグラウンドを考慮した本格的なMCサンプルの生成を開始し、名古屋大学では、イベント数にしてO(10^9)、積分ルミノシティ換算で300/fb相当のMCサンプルを生成し、実際の環境により近い解析が可能になった。また、計算ノードの負荷試験ベンチを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物理解析において、B→D*τ ν 崩壊の崩壊分岐比のセミレプトニックタグ手法を用いた新しい結果が得られたことは今年度の著しい成果と考えている。この崩壊については、先行研究で標準理論の予想値よりやや高い測定結果が報告されていたが、新しく得た結果はこのズレの確度を高めるものとして注目された。 TOP検出器に関しては、本研究によってTOP実機モジュールの製作をほぼ完了することができた。これは、10年以上にわたって名古屋大学で進めてきた開発研究がようやく本実験で使用される検出器として実現したもので、大きなマイルストーンの達成である。 データ解析装置については、許される予算の範囲で可能な限りのグリッド計算機補強を行い、Belle II実験のモンテカルロ事象の生成を進めることができた。このアクティビティーは国内の他大学にも波及し、大阪大学RCNP、新潟大学や北海道大学などにグリッド計算網が拡大し、名大をコアとする国内ネットワークを形成しつつある。 本研究が後押しする形で学内措置により「名古屋大学重フレーバー素粒子物理学国際研究ユニット」が発足し、外国人を含む2名の研究スタッフの補強が進んだ。本研究のアクティビティーの高さは、関連研究者の受賞やプロモーションにもつながり、本科研費で雇用している加藤悠司研究員がICHEP2016国際会議でベストポスター賞、研究代表者である飯嶋が第8回折戸周治賞を受賞したほか、研究分担者の早坂が新潟大学准教授にプロモートされた。 反省すべき点としては、TOP検出器やデータ解析装置の運用にエフォートが割かれ、物理研究が相対的に弱くなっている。特に、Belle実験のタウ崩壊の解析において、タウLFV崩壊とEDM測定の最終結果を出すには至らなかった。平成28年度にはTOP検出器の建設が終了するので、体制を立て直して物理研究を強化してゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
【物理解析】 Belle実験データを用いたB→D(*)τ ν 崩壊については、セミレプトニックタグ手法による新しい結果の論文投稿を完了し、ハドロニックタグ手法によるタウレプトンの偏極度測定についても最終結果の導出と論文発表を行う。H28年度に持ち越しとなったタウLFV崩壊、タウEDM測定を早期に完了する。TOP検出器の建設完了に伴い、エフォートの比重を物理解析に移してゆく。 【TOP検出器】TOP検出器モジュール全数(予備を含めて17台)の製作を完了し、Belle II 測定器へのインストレーションを完了する。インストールした検出器の宇宙線を用いたデータ取得を行い、測定器の補正係数決定などを進める。また、予備モジュールとBelle II 中央飛跡検出器を組み合わせて、トラッキングされた飛跡に対するTOP検出器の応答を検証する。これらの較正作業を進め、検出器性能を最大限に引き出す。 【データ解析装置】名古屋大学のグリッド計算機の増強を順次進める。平成28年度にはDisk容量の増強も進め(0.2→1PB)。また、単純に計算機を増強するだけでなく、これまでに構築した計算ノードの負荷試験ベンチを活用して、高負荷下の計算ノードの耐性とトラブル発生のトリガーを評価し、より高効率の計算ノードの運用を目指す。 【国内外との連携】「名古屋大学重フレーバー素粒子物理学国際研究ユニット」の発足や、早坂の新潟大学への転出を契機として、国内外の研究者との連携をより強めて、タウレプトン物理解析の拠点構築を進める。本研究が目指すタウ•レプトンをプローブとする新物理探索は、LHC実験で進む直接探索と相補的なアプローチであり、LHC実験の進行に応じて、より重要となる測定モードや、新物理のモデルを検証しながら進めることも重要である。こうした検討を進めるための研究会を積極的に開催する。
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