研究課題/領域番号 |
26220707
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
杉立 徹 広島大学, 理学研究科, 教授 (80144806)
|
研究分担者 |
濱垣 秀樹 長崎総合科学大学, 付置研究所, 特命教授 (90114610)
中條 達也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (70418622)
三好 隆博 広島大学, 理学研究科, 助教 (60335700)
野中 千穂 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 准教授 (10432238)
|
研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
|
キーワード | クォーク物質 / フォトン物理 / ALICE実験 / クォークグルーオンプラズマ / QGP |
研究実績の概要 |
2017年6月から陽子衝突13TeVで第2期衝突実験3年目を開始した。PHOS/DCAL検出器とも順調な立ち上がりを果たした。同年は全期間を陽子衝突に費やし、11月終了までの10/pb 衝突積算輝度の中から約1000M事象を収集記録した。長期にわたる連続データ収集に於いて私たちが運用責任を担うPHOS/DCAL検出器及びこれらの特色を際立たせるジェット対事象選別機能が最高性能を発揮するよう実験管理運用に日々従事するとともに、前年度までに収集した5.02TeV/A鉛+鉛原子核衝突実験データによる中性中間子生成の物理解析に集中した。物理審査部会はその達成度を12月及び翌2月、集中的に評価検討した結果、5月にイタリア・ヴェネティアで開催される本研究分野における最重要国際会議クォークマターにてこの成果を初めて公表することにした。これは論文公表への最終的なステップになると同時に、私たちが主導する熱輻射単光子解析を進めるために不可避な背景光子の解析手法を確定する意味で大変重要な前進であった。一方、新たなフォトン物理の開拓を目標に、カラーグラス凝縮や早期熱平衡化機構の解明に焦点を絞った超前方FOCAL検出器の開発を進めた。その基本構造は微細化したSi-Wサンプリング電磁シャワー検出器である。シリコン半導体センサーを国内で試作し、国内加速器施設でテスト実験するとともに、赤外光パルス光源により静特性を検討した。また、広島大学に置く地域データ解析拠点を整備増強しノンストップ運用責任を果たすとともに、アジア地域解析拠点幹事としてアジア地域ネットワーク接続強化及び協調的な解析力強化の指導的役割を果たした。最終年の2018年は再度、鉛+鉛原子核衝突データを収集する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALICE実験に於いては複数の物理学的視点からデータ解析が進められており、私たち大学チームは、自身で開発・共同建設したPHOS/DCAL検出器を主要測定器とするフォトン物理及びジェット物理を中心に主体的に活動してきた。LHC加速器改修後、最高衝突エネルギー5.02TeV/A鉛+鉛原子核衝突が創るクォーク物質解明に向け、中性中間子生成の最終結果を輩出することが最優先課題であった。概要に述べたように論文公表に向け順調に物理解析を進展させ、物理審査部会は、解析チームの中心となり牽引してきた広島大院生にクォークマター国際会議で実験組織を代表して口頭発表させることにした。
予備的解析ながら摂動的QCD光子分布に重畳する熱輻射光子成分も明確に認めた。中性中間子生成の論文公表が完結することにより、単光子生成の背景事象となる中性中間子崩壊光子の解析手法が確立し、単光子解析もより信頼性を高め公表に向けて完成度を高めていく準備が整った。今後、衝突エネルギー倍増による到達温度や熱輻射光子量の変化からクォーク物質の熱力学的性質を突き止めていく。
強く相互作用する量子多体系の分野形成を目指して理論系分担者が中心になり、前年度に引き続きインフォーマルミーティングを開催した。特にプラズマ物理学や宇宙物理学で展開されている概念、そして数値流体力学のアルゴリズムや粒子シミュレーション法(Particle-In-Cell 法)といった計算手法に注目して意見交換した。また、高エネルギー原子核衝突が創るクォーク物質と古典的電磁プラズマ物理との類似性を検討し、プラズマ物理の国際会議等に於いて、クォーク物性研究に対するプラズマ物理からの寄与を初めて投稿し異分野連携の端緒を開いた。
|
今後の研究の推進方策 |
LHC加速器第2期衝突実験最終年を迎え、史上最高衝突エネルギーでの陽子衝突及び原子核衝突において高統計高品位データの収集を順調に続ける。データ解析も順調に進展し、史上最高温度での量子多体系の様相も見えてきた。わが国実験組織の責任ある活動を継承するとともに、理論系分担者との協働も強化しながら新たな分野開拓に繋がる展開を目指す。前半に述べたように、私たちは着実に研究を進め、その成果を挙げてきた。実際、本研究課題開始後3年目に実施された研究進捗評価でも「当初目標に向け順調に研究が進展しており、期待通りの成果が見込まれる」との評価を頂いた。他方、課題最終年を迎えながら新たな実験データを追加取得するという状況は当初予期していなかったことではあるが、ひとつひとつの取り組みを着実に進めることにより当初目標を完結していく。熱輻射光子の物理成果に関しては、他LHC実験では到達できないフォトン物理の重要性及び完成度を鑑み、最終年の収集データ解析を待たずに早期にレター論文として公表するよう主張する。
カラーグラス凝縮やクォーク多体系早期熱化機構の解明へ繋げるFOCAL検出器の技術開発を着実に進展させるとともに、広い視点から新たなフォトン物理を切り拓く努力を継続する。超前方単光子発生機構及び超前方中性中間子2粒子相関などに加えて、超前方と中心ラピディティ領域の2粒子相関についても新たな可能性を探る。長ラピディティ相関の測定からクォーク物質の物性を解明する重要な物理量である流体比粘性の大きさに関する情報が引き出せることを期待する。今後、ALICE実験検出器の諸性能及びLHC衝突における実験環境を取り込みながら測定の実現性を検討する。
|