研究課題/領域番号 |
26220708
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鳥居 祥二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90167536)
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研究分担者 |
森 正樹 立命館大学, 理工学部, 教授 (80210136)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 高エネルギー電子 / 陽子・原子核 / ガンマ線 / 超新星残骸 / 暗黒物質 / カロリメータ / 国際宇宙ステーション |
研究実績の概要 |
CALETは観測開始以来、現時点(4月末)まで約560日間にわたって極めて順調な観測が継続的に行われている。主要な観測モードである高エネルギー(>10GeV)トリガーによる観測は、観測実時間(live time)の割合が約85%で安定的かつほぼ一定の条件で予定通り行われており、これまでの総観測量は約3.7億イベントに達している。このような安定的運用に加えて、今年度は装置性能の長期変動を確実に補正することにより、観測の基礎となる軌道上データのエネルギー較正方法を確立し、(1)電子エネルギー分解能(>100GeV): < 2%、(2)エネルギー測定領域:1GeV-1PeV、(3)エネルギー測定系統誤差: 約1% 等、という所期の性能が達成されている(Astroparticle Physics、2017)。 早稲田大学CALET Operations Center (WCOC)において、軌道上の観測データ(L1)からエネルギーなどの較正を行ったデータ(L2) を継続的に作成して、国内外の研究チームと共同してデータ解析を実施している。データ解析の結果とシミュレーション計算との比較により、入射粒子の電子/陽子識別や電荷決定を行い、電子及び陽子・原子核成分のエネルギースペクトルの初期的な結果が得られている。電子(>10GeV)候補について150万イベント以上のデータが取得されており、所期の目的であるTeV領域に及ぶ観測が達成されている。陽子・原子核に関しては、主要な一次核について100TeV近辺までエネルギースペクトルが得られている。さらに、ガンマ線観測では、1GeVと10GeVのエネルギー閾値の観測で、銀河内拡散成分やVela, Crabなどの代表的なソースや変動天体(CTA102) が検出されている。 以上の所期の目的に加えて、宇宙天気予報や重力波に関連する観測が実現された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CALETは期待通りの軌道上における観測性能を発揮して、ほとんど中断もなく順調な観測が実施されている。その結果、研究期間内に本研究目的を達成するために必要な観測データの取得が予定通りに進行している。同時に、軌道上データ較正及びデータ解析手法の開発により、電荷識別やエネルギー測定などの重要な観測性能が期待通りに達成されている。さらに、国内外の共同研究者との定期的なチーム会議やテレコンにより、十分な情報共有をもとに科学データ解析が実施されている。 本研究の主要な目的である、高エネルギー電子の観測においては、初期的な結果ではあるがTeV領域に及ぶエネルギースペクトルが得られており、本研究期間内(3.5年間の観測)において研究目的の達成は可能であるだけでなく、その後に予定されている観測期間(全体で5年間)において、より高精度な観測結果が期待できる。その結果、sub-TeV領域における電子エネルギースペクトルに見られる”過剰成分”の成因が暗黒物質かパルサーかの決定や、TeV領域における近傍加速源(Velaなど)の検出を達成できることが十分に予測できる。加えて、陽子・原子核の観測やガンマ線の観測も、「研究実績」で述べたとおり予定通りの観測成果が得られている。 当初の観測目的にはなかった、宇宙天気予報に関連するRelativistic Electron Precipitationの観測(Geophysical Research Letters, 2016)や、ガンマ線バーストモニタとカロリメータによるLIGOとのMOUに基づく重力波の同時観測(Astrophysical Letters, 2016)が実施されている。いずれも、安定的な運用によりCALETの性能がフルに発揮された結果として達成された成果であり、今後の観測において当該分野に対して大きな波及効果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで軌道上における約1.5年間の観測運用は極めて順調に実施されており、観測性能に影響するような装置の不具合は発生していない。そして、これまでの軌道上観測データに基づく装置較正の達成、及びデータ解析手法の開発等により、主要な研究目的である宇宙線(電子、陽子・原子核)の高精度直接観測が実現しており、米伊との国際共同研究によるデータ解析も予定通りに進行している。その結果、現状の観測条件が維持され、順調にデータ蓄積が進むことにより、研究期間内に所期の研究目的を達成することは十分に可能であると考えている。加えて、長期に亘る安定した軌道上運用の結果、当初目的にはなかった宇宙天気予報や重力波などの突発現象の同時観測も実施されており、当該分野との緊密な研究連携により今後に大きな成果が期待できる。 2017年9月には打ち上げから2年間の観測成果について、JAXAによるフルサクセス(サイエンス)基準審査が予定されているが、現時点ですでに成功基準を達成できる成果が得られていると判断している。フルサクセスを達成した上で、観測運用の技術的な審査をクリアすることにより、打ち上げ後5年間の後期運用が実施できる予定である。したがって、本研究期間が終了する2019年3月以降も観測実施が予定されているため、後期運用全体の完遂によるさらなる研究成果の実現に向けて、新たな科研費の申請等による研究予算の獲得を予定している。 今後の科学成果発信のため、各研究機関におけるデータ解析において連携をさらに促進し、各研究項目に沿った宇宙線観測に関する初期成果の発表を国内外の会議で行うとともに、主要雑誌による論文発表を2017年夏期頃に行う予定である。そして、本研究期間の終了時期には、それまでの全観測データの解析による研究成果のまとめを、国際的に著名な雑誌に投稿することを予定している。
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