研究課題
CALETは観測開始以来、現時点まで約2.5年にわたって極めて順調な観測が継続的に行われている。主要な観測モードである高エネルギー(>10GeV)トリガーによる観測は、観測実時間(live time)の割合が約85%で安定的かつほぼ一定の条件で極めて順調に行われており、これまでの総観測量は6億イベント以上に達している。このような安定的運用に加えて、装置性能の長期変動を定期的に較正することにより、観測の基礎となる軌道上データのエネルギー測定について、(1)電子エネルギー分解能(>100GeV): < 2%、(2)エネルギー測定領域:1GeV-1PeV、(3)エネルギー測定系統誤差: 約1% 等を達成している。早稲田大学CALET Operations Center (WCOC)において、軌道上の観測データ(L1)からエネルギーなどの較正を行ったデータ(L2) を継続的に作成して、国内外の研究チームと共同してデータ解析を実施することにより、以下の研究実績を挙げている。1)主要目的である高エネルギー電子(>10 GeV)観測では、入射粒子の電子/陽子識別によりTeV領域に及ぶ観測を達成し、論文発表 (PRL2017)を行なった。2)陽子・原子核に関しては、入射粒子の電荷決定をZ=1-40において達成し、主要な一次核について100TeV近辺までエネルギースペクトル、B/C比のエネルギー依存性、及び 鉄核より重い超重核のフラックスを国際会議(ICRC2017) と日本物理学会等にて発表している。3)ガンマ線観測では、銀河内拡散成分やVela, Crab, Gemingaなどの代表的なソースや変動天体(CTA102) を検出し、解析手法とともに論文を投稿中である。さらに、4)重力波発生天体における電磁波成分の検出やガンマ線バーストの観測結果についても、論文を現在投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
CALETは期待通りの軌道上における観測性能を発揮して、これまで2.5年間以上の観測がほとんど中断もなく順調に実施されている。その結果、研究期間内 に本研究目的を達成するために必要な観測データの取得が予定通りに進行している。同時に、軌道上データ較正及びデータ解析手法の開発により、電荷識別やエネルギー測定などの重要な観測性能が期待通りに達成されている。そして、打ち上げ後2年間の「定常観測」に関するJAXAにおける審査を受け、2018年以降の「延長運用」が承認されている。本研究の主要な目的である、高エネルギー電子の観測においては、すでにTeV領域に及ぶエネルギースペクトルが得られており(PRL2017)、現在統計量を2倍にした5TeVまでの高精度解析の結果をPRLに投稿中である。本研究期間内(3.5年間の観測)において研究目的の達成が可能であるだけでなく、その後に予定されている観測期間 (5年間以上)において、より高精度な観測結果が期待できる。その結果、sub-TeV領域における電子エネルギースペクトルに見られる”過剰成分”の成因が暗黒物質かパルサーかの決定や、TeV領域における近傍加速源(Velaなど)の検出を達成できることが十分に期待できる。さらに、陽子・原子核の観測やガンマ線の観測も所期の観測成果が得られており、論文を投稿中または作成中である。加えて、 当初の観測目的にはなかった、LIGO/VirgoとのMOUに基づく重力波源の同時観測(ApJL, 2016 )を実施している。連星中性子星の合体を起源とするGW180817については、"Multi-messenger Observations" の一つとして共同論文(ApJL2017)に参加している。さらに観測機会が増える今後の重力波源観測において、CALETはGeV以上のガンマ線観測にユニークな貢献が期待できる。
これまで軌道上における約2.5年間の観測運用は極めて順調に実施されており、観測性能に影響するような装置の不具合は発生していない。そして、これまでの軌道上観測データに基づく装置較正の達成、及びデータ解析手法の開発等により、主要な研究目的である 宇宙線(電子、陽子・原子核)の高精度直接観測が実現しており、米伊との国際共同研究によるデータ解析も予定通りに進行している。その結果、現状の観測条件が維持され、順調にデータ蓄積が進むことにより、研究期間内に所期の研究目的を達成することが十分に可能であると判断している。加えて、長期に亘る安定した軌道上運用の結果、当初目的にはなかった太陽フレアや重力波源などの突発現象の共同研究による同時観測も実施されており、当該分野との緊密な研究連携により今後に大きな成果が期待できる。 2017年9月には打ち上げから2年間の観測成果について、JAXAによるフルサクセス基準審査が行われたが、その結果打ち上げ後5年間(以上)を目指した後期運用が2018年1月からスタートしている。この結果、本研究期間が終了する2019年3月以降も観測実施が可能であり、後期運用全体の完遂によるさらなる研究成果の実現に向けて、2019年度からの新たな科研費の申請等による研究予算の獲得を準備している。今後の科学成果発信のため、各研究機関におけるデータ解析において連携をさらに促進することにより、各研究項目に沿った成果の発表を国内外の会議で積極的に行うとともに、まだ未発表の陽子・原子核の初期観測結果の主要雑誌による論文発表を2018年夏期までに行う予定である。ガンマ線観測や重力波源観測の性能に関するはすでに投稿中であるので、その確実な掲載に向けて努力する。本研究期間の終 了時期には、それまでの全観測データの解析による研究成果のまとめを、国際的に著名な雑誌に投稿することを予定している。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 18件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 18件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件) 備考 (4件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
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