研究課題/領域番号 |
26220710
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樽茶 清悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40302799)
|
研究分担者 |
山本 倫久 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (00376493)
大岩 顕 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10321902)
|
研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
|
キーワード | 3スピン量子ビット / 高速ラビ振動 / 電子対分離 / 超伝導-ナノ細線接合 / もつれ光子対 / 量子状態変換 |
研究実績の概要 |
(1)3重量子ドットの3電子スピン制御に集中し、(111)スピン閉塞、スピン共鳴、ラビ振動(3量子ビット化)を初めて実現した.スピン共鳴を利用してドット間の離調、交換結合エネルギーと励起状態の関係を求めた.また、テレポ-テーション、位相ゲートの方式を提案した.加えて、世界最高速のラビ振動とこれによる核スピン環境雑音の影響の抑制を達成し、また高速化に適した試料設計を提案した. (2)表面弾性波によって動く量子ドット中の2電子を分岐回路のクーロン相互作用を利用して空間分離することに成功した(効率:87%).また、同手法を用いたベル測定を検討した. (3)InAsの他にグラフェンを用いた電子対分離の項目を追加した.前者ではAl超伝導体/並列InAsドットの実験を継続し、電子対の非局所分離トンネルを再確認した.後者では対電子の2つのグラフェンドットへの分離に成功した(効率:62%).また、クーパー対電子がグラフェン中で別々のバレーへと散乱されることを利用した電子対の空間分離法を発案し、バレーに応じて電子の軌道を制御できるバレーホール効果を実証した.マヨラナ関連では硫化処理によるナノ細線/金属電極の良質な接合形成技術を確立した.また、InAs量子井戸中に高品質な細線を作り、量子化伝導を確認した. (4)単一スピンのトモグラフィーより、もつれ光子対生成スピン対のベル測定が有効であることが判明し、必要項目として光子対源の開発と光子吸収効率の改善を進めた.良好な単一もつれ光子対源の準備を終えた.後者ではブラッグ反射器を埋め込んだ2重ドットを作製し、また、InAs自己形成ドットの利用の検討を開始し、まず電荷検出技術を開発した.また新しいスピン判定法として量子ドットと量子ホールエッジ状態の結合系のスピンフィルターを利用する方法を検討し、その効率が局所ポテンシャル制御で改善できることを見出した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3スピンによるラビ振動など予定は全て達成し、加えて、磁石法による世界最高速のラビ振動の達成、それによる環境雑音の影響の抑制など、世界初となる量子制御を達成した. スピン対の量子電子光学に関して、予定通り電子対の分離に成功しただけでなく、新たにベル測定の方法まで提案できた. グラフェンクーパー対スプリッターは、電子対制御に関する重要さから新たにテーマに加えた.近接超伝導グラフェンの長いコヒーレンス長を利用する新手法により、二次元物質では初めて高い効率でのクーパー対分離に成功した.また、2層グラフェンでのバレーホール効果を世界に先駆けて実証した.いずれも、当初予期していない項目であるが、予想以上に優れた成果が上げられた.また、マヨラナに関しては、検証に不可欠な、良質な接合の作製技術の確立が行えたことは、今後、ナノ細線デバイスを用いたヘリカル状態の実証のための大きな成果である.また、量子井戸から作製した細線デバイスで良質な量子細線が得られており、新奇現象の探索が期待される. 計画目標をもつれ光子対によるもつれスピン対生成とベル測定によるもつれ検証を優先した.当初の単一光子生成スピンのコヒーレンス実証に関しては、次年度に再検討する.優先項目に関して、もつれ光子対源の作成は光子ー電子もつれ状態の実現への礎となる結果であり、大きな進歩である.また、InAs自己形成ドットを用いた電荷検出のために、2つの並列するドットを1つ自己形成量子ドットに正確に電極を取り付ける技術をほぼ確立できた.一方で、GaAs系量子ドットではエッジ状態を使ったスピンフィルター効果を利用する新しい光生成単一電子スピン検出法をという新しい知見を得た.いずれも世界に先駆けた成果といえる.
|
今後の研究の推進方策 |
(1)26年度多スピン操作の基本技術開発を終え、また環境雑音問題の重要性を認識した.これを踏まえて、2,3スピンのもつれ状態の位相制御と空間分離、4、5重ドットでのスピン制御法など、当初計画の本格実験に進む.これと平行して、環境雑音の除去を重要項目として取り上げる. (2)電子対分離に成功したので、今後は分離した電子のコヒーレンスや量子もつれの実証を目指す. (3)グラフェンクーパー対スプリッターにおける量子もつれの厳密な検証には電子対分離の効率を改善する必要がある.これは、試料設計の改良で対応する.また、グラフェン-超伝導接合の物理についても、様々な超伝導接合試料を用いて明らかにしていく.バレーの利用に関しては、まずは更なる実験によってバレーが関わる情報伝送の物理を明らかにする.超伝導-ナノ細線接合系に関しては、磁場の印加で発現するヘリカル状態の実証を目指す.そのために細線宙吊り構造デバイスを作製する.量子井戸から加工したInAs細線では半整数量子伝導度プラトーが報告されているため、この再現と磁場依存性から起源を明確にする. (4)光子電子変換は、もつれ光子対で作った電子-光子対の同時検出に加えて、当初計画の単一光子生成スピンに関して、光学スピン閉塞効果を用いた量子状態転写法を考案、実証する.光子吸収効率に関しては、GaAsドットでブラック反射鏡の効果を確認し、効率限界を推定する.InAsドットの電荷検出は技術開発を継続する.また電荷検出技術が確立しているGaAs系量子ドットでの光子吸収効率を改善するため、(110)GaAs量子井戸基板を作製し、重い正孔からの量子状態転写が可能であることを、まずは磁気光学効果を用いた集合光生成スピンの測定で実証する.量子ドット―エッジ系の単一スピン判定に関しては、スピンフィルターの性能を確認したうえで光生成電子スピンへの適用を検討する.
|