研究課題
本年度は、西グリーンランド南部のイスア表成岩帯の地質調査を行った。イスア表成岩帯では最近最古のストロマトライト構造が発見されるなど、初期地球の生命やその生息環境に関して多くの発見が続いている地域である。私はおよそ20年前に本地域を調査し、地質図を完成させ、38億年前にすでにプレートテクトニクスが機能していたことやイスア表成岩帯に存在する変成玄武岩や堆積岩がそれぞれ中央海嶺や海洋底で堆積したことを提案したが、その結論を補強するため、さらに詳細な地質図を北東部で作成した。また、最近、本地域の炭酸塩岩が化学沈殿岩由来であることが示されたので、今後、その炭酸塩岩の化学組成を用いて38億年前の海洋組成を推定するために、その産状を詳しく記載し、多くの岩石試料を採取した。私たちが最近発見したカナダ・ラブラドル地域の約39億年前の付加体中の炭酸塩岩の化学組成の分析結果から、当時の海洋はNi, Cu, Coなどの生命必須・遷移元素に富むことがわかった。隕石のNd同位体異常に関する研究を行い、その結果を国際誌EPSLに発表した。耐酸性粒子を含む炭素質コンドライト、および普通コンドライトの全岩試料を高温・高圧条件下で完全分解した後、表面電離型質量分析計を用いて高精度Nd同位体分析を行った。その結果、コンドライト全岩にはs-processに欠乏するNd安定同位体異常が確認された。同位体異常の原因は、初期太陽系における熱プロセスにより、プレソーラー粒子が円盤内で不均質分布したことであると結論づけた。岩石の浸透率に基づき海洋マントルの含水プロセスと海水量の変動について新たなモデルを提案した。また、岩石のレオロジー特性に基づき、火星内部での水の変遷に関する考察を行った。冥王代ジルコンのHf及びZr同位体分析を行い、初期地球の珪酸塩分化条件に制約を与えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究で分析法の確立を目指していた、146Sm-142Nd系、Re-Os系やNb-Zr系などは、隕石試料などの分析ではすでにルーティンにすることができた。そして、隕石試料ではこれらの分析手法を取り入れた論文を多く公表し、太陽系最初期や前太陽系での元素合成に関する新しい知見を得ることができた。そのような隕石試料に加えて、現存する最古の岩石であるアカスタ片麻岩体の苦鉄質岩の146Sm-142Nd系やRe-Os系の分析も完了した。Re-Os系の分析結果からは、約42.7億年前という地球最古の岩石の年代や後期隕石重爆撃前の核形成の痕跡を示唆する極めて高いOs同位体比が得られた。また、146Sm-142Nd系の分析からはマントルの再均質化が42.7億年前以前に起きたことと地球の材料物質がエンスタタイトコンドライト質であったことがわかった。地球の材料物質の特定や大規模初期分化の再均質化の時期の推定は本プロジェクトの当初予定の中核をなすもので、それらについて、新たな知見が得られたことは本研究が順調に進められていることを示す。今後は、これらの結果の論文化に努める。また、カナダ・ラブラドル地域のNulliak表成岩帯(約39億年前)の泥質岩、炭酸塩岩やレキ岩から炭質物を発見し、それらが軽い炭素同位体に富むことから生命由来であることを示した。Nulliak表成岩帯は現存する最古の表成岩であるため、そこに含まれる炭質物は最古の生命の痕跡となる。その結果はNatureにおいて公表され、多くのメディアに取り上げられるなど大きな反響を生んだ。
本年度は、①カナダ・ヌブアギツック地域の地質調査を行う。ヌブアギツック地域は、38億年前の年代を持ち、昨年も、最古生命の痕跡が報告されるなど、現在活発な研究がされている地質体である。さらに、本地域の緑色岩や超塩基性岩を用いた147Sm-142Ndの変形アイソクロン年代では約42億年前の年代が得られており、冥王代物質の存在も期待されている地域である。私たちは、一昨年に、初めて同地域の地質調査を行い、一部の地域で地質図を作成した。そして、岩石試料を持ち帰ってきたので、それらの観察を行った上で、今年度、再度地質調査を行い、地質図を完成させる。②アカスタ片麻岩体の花崗岩質片麻岩中のジルコンの年代、希土類元素組成や酸素同位体を分析し、その花崗岩物質の成因を解明する。④ラブラドルやグリーンランド・イスアの縞状鉄鉱層やラブラドルの炭酸塩岩の化学分析を行い、初期太古代の海洋組成を推定する。④ラブラドル・サグレック岩体の堆積岩に含まれる炭質物の窒素同位体比と微量元素組成や伴う硫化鉄の鉄同位体分析を行い、起源生命を推定する。⑤初期地球試料のZr同位体分析を行う。⑥初期地球形成直後のマントル同位体組成を探るため、隕石試料および地球試料のモリブデン同位体測定を試みる。⑦初期地球の海洋での物質循環を推定するために、熱水実験を行う。⑧初期大古代の炭酸塩岩の化学組成から、当時の海洋組成を推定する上で、顕生代や原生代の炭酸塩岩と対比する必要がある。そこで、太古代、原生代や顕生代の炭酸塩岩を採取し、その化学組成を分析する。本年度は、本計画の最終年度にあたる。これまでに出されてきた結果をまとめ、国際誌に投稿し、出版化を進める。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 14件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (66件) (うち国際学会 20件、 招待講演 9件) 備考 (2件)
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