研究課題/領域番号 |
26220802
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
侯 召民 国立研究開発法人理化学研究所, 侯有機金属化学研究室, 主任研究員 (10261158)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 希土類アルキル錯体 / 有機金属化学 / 触媒化学 / C-H結合活性化 / 共重合 / ヒドリドクラスター / 高分子化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、優れた物性や新機能を持つ高分子材料の合成や高効率な物質変換反応を目指して、希土類や4族金属錯体の特異な性質を利用した高活性、高選択的な錯体触媒の開発を行っている。本年度は、ハーフサンドイッチ型の希土類触媒系を用いることにより、1,4-ジメトキシベンゼンとノルボルナジエンとのC-H結合重付加反応が初めて達成され,原子効率の高い交互共重合体の合成法を開発した。さらに、パラメトキシスチレンのC=C二重結合の連続挿入による連鎖重合とC=C二重結合へのメトキシオルト位C-H結合の挿入を経る逐次重合が同時進行することを世界で初めて見出し、新規多分岐ポリマーの合成に成功した。 また、SmやLaを中心金属として持つキラルハーフサンドイッチ型ジアルキル錯体がシクロプロペン類の不斉ヒドロアミノ化反応において優れた触媒として作用することを見出し、医薬品を始めとする生物活性化合物などの合成中間体として有用なキラルシクロプロピルアミン類を高い光学純度で得ることに成功した。本希土類触媒系は非常に活性が高く、温和な条件で反応を進行させることが可能であり、高度に歪んだ三員環構造を持つシクロプロペンにおいて、開環などの副反応を伴うことなくヒドロアミノ化のみが選択的に進行した。 さらに本研究提案者らは以前、ハーフサンドイッチ型チタンアルキル錯体を水素化することで、チタンヒドリドクラスターが得られ、このクラスターが常温常圧で窒素分子の切断と水素化を達成できることを見出した。本研究では、窒素分子の活性化で得られた四核チタンジイミド/ジニトリド錯体がカルボン酸塩化物と温和な条件で反応し、様々なニトリル化合物が選択的に得られることを明らかにした。また反応で生じたチタン塩化物は、再び原料としてリサイクルできることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、ハーフサンドイッチ型カチオン性希土類アルキル触媒を用いたC-H重付加により1,4-ジメトキシベンゼンとノルボルナジエンまたは1,4-ジビニルベンゼンとの交互共重合反応を初めて実現した。さらに、p-及びm-メトキシスチレンの連鎖重合とC=C二重結合へのC-H付加を経る逐次重合が同時に進行する重合反応を初めて実現し、新規多分岐ポリマーの合成に成功した。これらのC-H重付加反応や連鎖逐次同時重合は副生成物を一切出さずに、極性基と非極性基である炭化水素骨格が交互に連結した高分子を与えた。 ハーフサンドイッチ型希土類触媒を用いる有機合成反応の開発においては、光学活性なCp配位子を持つ一連のハーフサンドイッチ型希土類ジアルキル錯体を初めて合成し、これらがシクロプロペン類の分子間不斉ヒドロアミノ化反応において優れた触媒として作用することも見出し、医薬品などの合成中間体として有用と考えられるキラルシクロプロピルアミン類を高い光学純度で得ることに成功した。 さらに、ハーフサンドイッチ型チタントリアルキル錯体を水素存在下で窒素分子と反応させることで得られた四核チタンジイミド/ジニトリド錯体とカルボン酸塩化物との反応により、簡便かつ温和な条件でニトリルの選択的合成を達成した。これらの反応はいずれも複数の金属ヒドリド活性部位の協奏的効果を顕著に表すものであり、今後、様々な不活性分子の骨格変換や官能基化への展開が期待できる。 以上のように、本研究では、多方面において当初の目標を大きく上回る成果を得ることができ、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
希土類触媒による新規重合反応の開発においては、まずこれまでの実験結果を踏まえて、引き続き、中心金属や配位子を適切に組み合わせて、対応する様々な希土類ジアルキル錯体を合成し、これらを触媒として用いてヘテロ原子の配位を適切に活用した精密重合および共重合反応を検討していく。具体的には希土類触媒を用いた、1,4-ジメトキシベンゼンとノルボルナジエンのC-H結合重付加反応に加え、メトキシスチレン類の連鎖逐次同時重合などによって得られた末端にアニソールユニットを有する交互共重合体や多分岐ポリマーを連鎖移動剤として活用し、様々なオレフィン類の重合反応を行い、極性ユニットと非極性ユニットを有する新規マルチブロック共重合体を合成する。 キラルハーフサンドイッチ型希土類錯体を利用した不斉合成反応の開発に関しては、これまで開発したビナフチル骨格を持つキラルCp配位子を母核とし、ビナフチル骨格やCp部位に様々な置換基を導入することで、電子的または立体的に性質の異なる新たな配位子を設計・合成し、一群のキラルハーフサンドイッチ型希土類ジアルキル錯体の合成を進める。これらのキラルハーフサンドイッチ型希土類ジアルキル錯体群を触媒として用いて、引き続き、様々な配向基を持つ基質のC-H結合活性化反応の開発やC(sp3)-H結合の不斉アルキル化の開発などに取り組む。 多核金属ヒドリド錯体による物質変換反応に関しては、三核チタンヒドリドクラスターを用いて、ヘテロ芳香環化合物であるキノリンやチオフェンなどの活性化にも取り組み、炭素-ヘテロ結合の切断を通した脱ヘテロ元素化および分離した炭化水素種の新しい物質変換反応を開発する。これら反応開発と並行して、5,6,7族などの中・後周期遷移金属を導入して、新たなハーフサンドイッチ型錯体構造を有するヒドリドクラスターの開発を行う。
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