研究課題/領域番号 |
26220803
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丸岡 啓二 京都大学, 理学研究科, 教授 (20135304)
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研究分担者 |
橋本 卓也 京都大学, 理学研究科, 助教 (20437198)
加納 太一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40372560)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 次世代型有機触媒 / キラル相間移動触媒 / 二官能性触媒 / ラクトン化反応 / 酸塩基複合触媒 / 有機ラジカル |
研究実績の概要 |
本研究では有機触媒の性能に応じて、次世代型有機触媒の合理的なデザインを目指すとともに、これらの触媒を駆使して精密有機合成反応を開拓した。まず、有機塩基触媒として機能する相間移動触媒の研究では、新たな撹拌方法として従来のマグネティックスターラーの代わりに、ローター型のホモジナイザーを適用した。固体塩基の粉砕と撹拌速度の大幅な向上により、反応の要する時間が100分の1以下という劇的な効果が見られた。新しい有機酸触媒として、π酸である求電子的セレンを用いたキラルセレン触媒を創製し、不斉ラクトン化反応へと応用することにより良好な結果を得た。有機酸塩基複合触媒の研究では、4-ヒドロキシプロリンからシリカゲルカラムクロマトグラフィーのみで光学分割が可能な2-トリアリールメチルピロリジン誘導体やホモプロリン誘導体の簡便な合成法の開発に成功した。有機ラジカル触媒のひとつとして、かさ高いチイルラジカル触媒を用いると、N-トシルビニルアジリジンとアルケンとの[3+2] 環化反応が可能になった。他の有機ラジカル反応剤として、超原子価ヨウ素剤の光分解を利用した脂肪族アルデヒドからの直截的なアシルラジカルの発生と、続く光学活性な電子不足オレフィンとの反応により、ジアステレオ選択的なラジカル的ヒドロアシル化反応の開発に成功した。さらに本反応を利用して、(-)-メチレノラクトシンの形式的全合成を達成した。超原子価ヨウ素剤とパーフルオロアルカンスルフィン酸ナトリウムを組み合わせることにより、様々なパーフルオロアルキルラジカルの発生法を確立し、広範な化合物に適用できる直截的なパーフルオロアルキル基導入法を開発した。また超原子価ヨウ素剤を用いた光反応の検討を行っていた際、これまで報告例が極めて限られているイミンの炭素窒素二重結合とオレフィン間での光[2+2]環化反応を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究室で開発された2-トリフェニルメチルピロリジンやその誘導体の光学分割は難しく、新たな誘導体の合成は困難とされていた。本研究では、新たに開発した光学活性な2-トリアリールメチルピロリジン誘導体の効率的な合成法によって、さまざまな新規アミン有機触媒を合成することが可能になった。それらをアルデヒドの不斉ベンゾイロキシ化反応に有効な触媒であることが明らかになった。また、2-トリアリールメチルピロリジン誘導体をアルデヒドのα-セレノエノンへの不斉共役付加反応に適用したところ、高立体選択的に反応が進行した。有機ラジカル触媒のひとつであるチイルラジカル触媒に関しては、その反応性に対する知見が十分に蓄積されつつある。今年度は、シリル置換基を有するかさ高いチイルラジカル触媒を用いると、N-トシルビニルアジリジンとアルケンとの[3+2] 環化反応が円滑に進行することを見いだした。とくに、基質としてフラーレンを用いた場合、フラーレンとの[3+2] 環化生成物が得られた。新たな有機ラジカル反応剤として、超原子価ヨウ素剤とジフルオロ酢酸から容易に調製できるジフルオロメチル化剤の開発に成功した。このジフルオロメチル化剤に対し光を照射することで、ジフルオロメチルラジカルが発生し、種々の複素環式化合物への直截的なジフルオロメチル基の導入反応が効率的に進行する。またαアミノアルカンスルフィン酸ナトリウムと超原子価ヨウ素剤を組み合わせることにより、αアミノアルキルラジカルを発生させることができることを明らかにした。さらに超原子価ヨウ素剤の光分解を利用した脂肪族アルデヒドからの直截的なアシルラジカル発生法の更なる応用として、N-アリルアクリルアミドとの反応により、オキシインドール骨格を構築できることも見出している。
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今後の研究の推進方策 |
有機塩基触媒として機能するピロリジン型アミン触媒の研究では、今後も新たな触媒の効率的な合成法の確立を目指す。具体的には、アミン触媒にこれまで用いられてきたトリアリールメチル基以外のかさ高い置換基を導入し、不斉触媒反応における反応性および立体選択性への影響を調べる。有機酸塩基複合触媒の研究では、触媒の使い分けによってα,β-不飽和ケチミンを求電子剤として用いた反応における位置選択性の制御を試みる。有機ラジカル触媒については誘導化の容易なインダノール骨格由来の不斉反応場の効率的合成法が確立したため、この鋳型を基に種々のキラルチイルラジカル触媒を合成しモデル反応で評価する。またいくつかのチイルラジカルを用いた新規反応が見つかっており、これら反応系に対しても随時新たに合成されたチイルラジカル触媒を適用していく。超原子価ヨウ素剤を利用したラジカル反応では、引き続きヨウ素剤の光分解を利用した官能基変換反応を追求する。また、この反応系では光の強度が反応に大きな影響を及ぼすことがわかった。そこで、光の強度を利用した反応制御を試みる。一方、N-ヒドロキシベンゾイミダゾール誘導体が、有機ラジカル触媒として触媒活性を有していることを見出した。今後は反応性の向上を目指しN-ヒドロキシベンゾイミダゾール誘導体にフッ素原子などの電子吸引性機を導入することによる反応性の向上を図り、有機ラジカル触媒としてのN-ヒドロキシベンゾイミダゾールの可能性を追求していく。有機酸触媒の研究に関しては、カルボン酸ならびにボロン酸を用いた不斉触媒開発が順調に進んでおり、さらに優れた触媒系へと改善していく。またより挑戦性の高い酸触媒としてπ酸である求電子的セレンを用いたキラル触媒に関しても良好な結果を得ており、この概念を次世代型有機π酸触媒として確立すべく様々な触媒構造・反応系を検討する。
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