研究課題/領域番号 |
26220806
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今坂 藤太郎 九州大学, 未来化学創造センター, 特命教授 (30127980)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 分析化学 / レーザー計測科学 / 超短パルスレーザー / 質量分析 / 環境汚染物質 / 爆発物 / 神経ガス代謝物 |
研究実績の概要 |
質量分析法は、爆発物、神経ガス、農薬等の有力な手法の一つである。応募者はレーザーイオン化質量分析法を開発し、数1000種類の成分を一斉に、かつサブフェムトグラムまで分析できることを報告している。そこで、本研究では過酸化アセトン等の爆発物、サリン等の神経ガスの合成副産物・代謝物、農薬等の分子イオンの高感度検出を可能とする真空紫外~深紫外フェムト秒レーザーイオン化質量分析法について研究する。 本年度は、真空紫外フェムト秒レーザーを効率よく発生するため、ポンプ光(800, 1200nm)とプローブ光(200 nm)の3色のレーザー光を交差させて水素に入射させるBoxcars配置について検討した。その結果、互いに数度傾けることによりラマン光の発生効率が改善することを明らかにした。同時に、この研究において154.2 nmの真空紫外光が誘導放出する新奇な現象を見出した。一方、真空紫外光発生に用いているポンプ光とプローブ光の遅延時間を走引しながらラマン光の発生効率を測定した結果、水素のラマン光が周期的に効率よく発生するリバイバル現象が見られることを見出した。一方、超短パルスレーザーを光源とする質量分析については、以下の研究を行った。(1)PM2.5に含まれるニトロ芳香族化合物をヒドラジン1水和物によりアミノ体に還元して測定する高感度分析、(2)紫外2光子イオン化法と近赤外多光子イオン化法を用いる農薬51種の同時分析、(3)小型質量分析モジュールの製作と時間相関単一イオン計数法に基づくアレルギー物質のオンライン・リアルタイム計測、(4)尿中の神経ガス代謝物を抽出した後にブロモメチルナフタレンにより誘導体化して測定する高感度分析、などについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
真空紫外超短パルス光発生については、近赤外フェムト秒レーザーの光ビート(800, 1200 nm)により水素分子を誘起し、そこに紫外フェムト秒レーザー(200 nm)をプローブ光として導入する方法について検討した。上記3色のレーザー光を交差させて水素に入射させるBoxcars法を用いた結果、発生効率をプローブ光の18%まで改善できることがわかった。また、本研究において154.2 nmの真空紫外光が発生することを見出し、これをこれまで報告がない水素分子のライマン遷移に基づく誘導放出と結論した。一方、ポンプ光(800, 1200 nm)とプローブ光(267 nm)間の遅延時間を走引しながらラマン光の強度を測定し、周期的に強度が増減するリバイバル現象を見出した。 レーザーイオン化質量分析については、(1)福岡で捕集したPM2.5から抽出した試料をガスクロマトグラフに注入してニトロ芳香族化合物を分離した後、ヒドラジン1水和物と反応させてアミノ体に変換して測定する方法について検討した。この方法により還元が起こるニトロ化合物などを選択的に分析できることを明らかにした。(2)農薬等の有機化合物の分子イオンを明瞭に観測するため、紫外2光子イオン化法と近赤外多光子イオン化法について比較検討した。その結果、小さな分子は前者、大きな分子は後者により優先的に測定できることが分かった。(3)飛行時間が数μsとなる小型質量分析モジュールを製作し、これと時間相関単一イオン計数法を組み合わせる方式について検討した。実際に香料に含まれるオイゲノールなどをオンライン・リアルタイム計測できることを確認した。(4)尿中に存在する神経ガス代謝物を有機溶媒に抽出した後、ブロモメチルナフタレンにより誘導体化して測定する方法について検討した。分析の回収率(反応率)として約70%、検出限界として数ng/mLの値を得た。
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今後の研究の推進方策 |
真空紫外超短パルス光発生については、Boxcars配置を用いて効率を改善することが出来たが、ビーム交差角を利用して真空紫外光のみを取り出すことができなかった。そこで、真空紫外光だけを反射する誘電体鏡を2枚用いて分離する方式について検討する。一方、前年度に購入したフェムト秒Ybレーザー(1030 nm)を非線形光学結晶(BBO)に入射することにより、第二、第四高調波を効率よく発生させる。上記のレーザーをイオン化光源とする質量分析について研究する。 高繰り返しYbレーザーを用いれば光源が小型かつ低価格になるので、フェムト秒レーザーイオン化質量分析の実用化が達成できる。しかし、このような高繰り返しレーザー光源を用いるにはイオン飛行時間の短縮、すなわち質量分析計の小型化が必須となる。この場合に質量分解能が低下する懸念があるが、時間相関単一イオン計数法を採用することにより、この問題を解決できる。このような方式を用いると、レーザーの高出力化と単一イオンの計数により、超高感度計測が可能になる。そこで、前年度に開発した小型質量分析モジュールを組み込んだ小型質量分析計を設計・製作する。これを前年度に購入したYbレーザーと時間相関単一イオン計数装置と組み合わせ、実用的かつ超高感度なフェムト秒レーザーイオン化質量分析計を実現する。この装置を用いて空気中のアレルギー物質やヒト呼気中のアセトンなどを測定する。これにより爆発物や神経ガスのオンライン・リアルタイム計測への応用可能性について検討する。上記の方法はレーザーの繰返し速度が高く、時間相関単一イオン計数法を用いた場合でも測定の時定数を1秒以下にすることができる。したがってガスクロマトグラフと組み合わせることができる。そこで環境汚染物質や農薬、ブロモメチルナフタレンを用いて誘導体化した神経ガス代謝物の分析などに応用し、本法の有用性を実証する。
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