研究課題
緑膿菌をホストとする一酸化窒素還元酵素NORの発現系構築に成功した。この発現系は、NORが機能しないと、増殖しない事を利用して、NOR不活性型変異体のスクリーニングシステムを確立した。このスクリーニングシステムを用いて得られた結果は、精製変異酵素の酵素活性測定と良い相関が得られた。SACLAを用いた時分割結晶構造解析と時分割可視・赤外分光測定により、脱窒カビのNORの酵素反応中に現れる短寿命反応中間体の配位構造ならびに電子構造を明らかにした。また、脱窒菌のNORに関しては、マイクロ秒程度の寿命の第一反応中間体の時分割可視・赤外分光測定にも成功した。このNORの酵素反応に使われるプロトンの輸送経路に存在するアミノ酸(Glu57、Asp198)に変異を導入し、プロトン輸送を遮断する事により不活性化したNORにも、同様の手法を適用した。これにより第二の反応中間体の解析も可能となった。これらの結果を基に、脱窒カビ・脱窒菌の両NOR酵素反応の反応機構を提案した。分子動力学ならびに量子化学計算によるこの反応機構の検証を開始した。髄膜炎菌のNORに関して、酵素反応で使われるプロトンの輸送経路を同定し、この酵素はNO還元反応と共役して膜を介したプロトン濃度勾配を形成する事を明らかにした。呼吸酵素の祖先型として認定された。このNORの結晶化は順調に進んでおり、現在3.4Å分解能のX線回折点を与える結晶が得られている。また、電子供与体であるキノールの各種類縁化合物を用いた、阻害反応解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
SACLAと時分割分光による脱窒カビのNOR反応中間体の構造・電子状態の確立が第一の成果であり、Nature Communicationの受理・印刷された。この成果は、脱窒菌NORの反応中間体の構造・電子状態解析に着実に反映されている。第二の成果は、NORによるプロトン濃度勾配形成の確定であり、Scientific Reportに掲載され、呼吸酵素の分子進化を考える上で非常に重要な成果であると国際的に評価されている。緑膿菌スクリーニングシステムは、今後とも簡便な変異体活性評価システムとして有効である。Biochim. Biophys. Acta Bioenergetics に掲載された。病原菌のNORは、感染先の赤血球ヘモグロビンからヘム鉄を奪取する際に、感染先白血球が産生する抗菌ガスNOを無毒化する機能を有し、病原菌にとって必須の酵素である。病原菌はヘム奪取の際に、センサータンパク質によりヘム濃度感知機能させるが、その類縁センサータンパク質の構造機能解析に成功し、Science Signalingに掲載されて大きな反響をよんでいる。NOR研究と共に、病原菌とヒトとの関係性をタンパク質分子レベルで理解する非常に大きな進展である。
NORの酵素反応における、プロトン輸送は大きな成果が上がっているので、最終年度は、電子の輸送とNOの輸送に関してまとめていきたい。NORと電子供与体cyt c551との反応による電子移動速度の解析は既に済ませているので、cyt c551変異体を用いた、相互作用解析を行い、論文にまとめる。NO輸送にはVal206が重要な働きをしている事を緑膿菌スクリーニング系を用いて明らかにしているので、その詳細を実験ならびに分子動力学計算によって明らかにし、論文にまとめる。同時に、各種変異体の機能解析の結果(変異の効果)を構造基盤で説明する為に、LCP法を用いて結晶化ならびに構造解析を行う。すでにD198A変異体の結晶化には成功しているので、解析を進める。これらの研究を通して、NOを介した病原菌による人からの鉄奪取に大いに興味を持ったので、タンパク質レベルで研究を展開していきたい。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Biochemistry
巻: 57 ページ: 1620-1631
10.1021/acs.biochem.7b01240
Sci. Rep.
巻: 8: 3637 ページ: -
10.1038/s41598-018-21804-0
Sci. Signal.
巻: 11 ページ: -
10.1126/scisignal.aaq0825
J. Inorg. Biochem.
巻: 179 ページ: 1-9
Angew. Chem. Int. Ed.
巻: 56 ページ: 1-6
10.1002/anie.201707212
PROTEINS: Structure, Function and Bioinformatics
巻: 85 ページ: 2217-2230
10.1002/prot.25386
Nat. Commun.
巻: 8: 1585 ページ: -
10.1038/s41467-017-01702-1
Catal. Sci. Technol.
巻: 7 ページ: 3332-3338
10.1039/C7CY01130J
巻: 56 ページ: 10324-10329
10.1002/anie.201703461
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 114 ページ: 9888-9893
10.1073/pnas.1621301114