研究課題/領域番号 |
26220901
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
箕島 弘二 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50174107)
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研究分担者 |
平方 寛之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362454)
近藤 俊之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70735042)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 材料強度学 / 破壊 / 疲労 / クリープ / 金属薄膜 |
研究実績の概要 |
厚さがμmからサブμmオーダーの金属薄膜の機械的特性や強度は膜厚に依存する。これは膜厚の低下に伴う結晶粒微細化による転位運動の拘束,体積の縮小による転位源の枯渇に加え,変形・破壊に対する表面の影響が異なることに因る。しかも薄膜表面は大気環境下では酸化を受ける。本研究では,金属ナノ薄膜を用いて,変形・破壊に及ぼす自然表面酸化層と変形・破壊を生じる時の新生面の酸化・酸化層の影響を明らかにし,これにより純粋な表面効果を分離・抽出することにより,金属ナノ薄膜の機械的特性・強度に及ぼす寸法(膜厚)効果の本質を解明することを目的とする。本年度の研究実績を纏めると以下の通りである。 1.環境質制御型その場FESEM観察・解析実験システムの開発: ガス環境下においても高分解能で表面性状,損傷・破壊過程観察が可能な環境質制御型電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)に,表面酸化層を除去するためのArイオンエッチング装置を組み合わせたシステムの基本設計・開発を行い,その性能評価を行った。問題点の抽出・改善・調整により,本研究遂行に必要な性能を有することを確認した。さらに当初計画を前倒しして,上記FESEM内で稼働し,引張負荷,および疲労・クリープ負荷試験が可能なSEMその場観察薄膜試料引張試験装置を開発・導入した。 2.自立ナノ薄膜試験片の作製と表面酸化層の制御: 電子ビーム蒸着により製膜したCu薄膜を対象にして,大気中で生じる自然酸化皮膜厚さの経時変化を同定するとともに,オージェ電子分光装置を用いて表面酸化層を除去するための基礎情報を得た。 3.ナノ薄膜のき裂進展特性の解明: 開発したシステム等により,薄膜の弾性特性等の機械的特性に加え,多結晶Cu薄膜の真空環境下の破壊じん性に及ぼす膜厚効果,大気環境下疲労き裂進展に及ぼすき裂開閉口の影響,Au薄膜のクリープき裂進展の支配力学等を検討・解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では,本年度に環境質制御型その場FESEM観察・解析実験システムの基本部であるFESEMとArイオンエッチング装置を組み合わせたシステムを開発・導入するものであった。一方,当該システムにおいて強度試験を行うために用いるSEMその場観察試験装置については,疲労試験とクリープ試験のそれぞれに特化した2台の試験装置の基本設計を行う予定であった。しかし,試験装置の基本設計を進める過程で,高繰返し速度の疲労試験に用いる積層型ピエゾアクチュエータとクリープ試験に不可欠な高ストローク型のピエゾモータを組み合わせた試験装置を開発することにより,1台の試験装置で疲労試験とクリープ試験を実施できるとの結論に至った。そこで,本コンセプトに基づいた基本設計のみならず詳細設計を終え,当初計画を前倒しにしてSEMその場観察薄膜試料引張試験装置を開発・導入した。次年度に本装置の調整を進めることにより,その場FESEM観察下で疲労試験とクリープ試験を実施できる見込みである。さらに,これらと併行して,真空環境下破壊じん性,大気環境下疲労き裂進展特性およびクリープき裂進展特性等の基本データの取得に着手した。 以上の観点より,研究は当初の計画以上に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.自立ナノ薄膜試験片の作製と表面酸化層の制御: 現有の電子ビーム蒸着装置に加えてH27年度にロードロックチャンバー付きスパッタリング装置を導入することにより,膜厚が100 nm ~ 1000 nmであるCu,Al,およびAuの「縦・横寸法がmmオーダーの自立ナノ薄膜試験片」作製の加速・効率化をはかり,各種検討を推進する。さらに,オージェ電子分光装置等を用いて表面酸化層を除去するための基礎情報,酸化速度と真空度の関係を明らかにして,試験片の標準コンディショニング条件を決定する。つぎに,イオンエッチング装置を用いて表面酸化層を除去するための,電流密度,加速電圧,エッチング時間等の条件を決定する。 2.SEMその場観察薄膜試料引張試験装置用制御システムの開発: 昨年度に前倒しで開発・導入したSEMその場観察薄膜試料引張試験装置で疲労試験が可能となるように,ピエゾアクチュエータの制御システムをLab View上で開発し,高精度かつ高繰返し速度(~30Hz)の疲労試験を環境質制御型FESEM中で行えるようにする。さらに,試験装置のピエゾアクチュエータとピエゾモータの両者を制御して,長期間にわたるクリープ試験を可能にするソフトウェアを開発し,環境質制御型FESEM中でクリープ試験を行うにあたっての問題点を抽出する。 3.引張特性・破壊じん性,疲労き裂進展特性,およびクリープ特性に及ぼす環境の影響: 開発したSEMその場観察薄膜試料引張試験装置等を用いて,多結晶・単結晶金属ナノ薄膜の各種強度特性(引張特性・破壊じん性,疲労き裂進展特性,およびクリープ特性)に及ぼす膜厚・真空環境効果,ならびに表面酸化層の有無の影響についての検討を開始する。 4.10 nmオーダー超ナノ薄膜の強度実験: 環境効果が顕著になると予測される10 nmオーダー超ナノ薄膜の作製技術および強度実験方法の検討を開始する。
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備考 |
日本材料学会疲労部門委員会第32回疲労シンポジウム(2014年11月)優秀研究発表賞,2015年4月,「自立銅ナノ薄膜の疲労き裂進展機構と膜厚依存性」,近藤俊之, 石井孝樹, 平方寛之, 箕島弘二 日本機械学会関西支部第90期定時総会講演会(2015年3月)若手優秀講演フェロー賞,2015年4月,「自立銅ナノ薄膜の疲労き裂進展におけるき裂開閉口挙動」,石井孝樹, 近藤俊之, 平方寛之, 箕島弘二
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