研究課題/領域番号 |
26220903
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川原田 洋 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90161380)
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研究分担者 |
磯谷 順一 筑波大学, 名誉教授 (60011756)
小野田 忍 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (30414569)
寺地 徳之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (50332747)
稲葉 優文 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (20732407)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | ダイヤモンド / イオン注入 / スピン共鳴測定 / 生体分子 / NMR / NVセンター / MOSFET |
研究実績の概要 |
1.表面近傍の窒素空孔マイナス(NV-)センターのコヒーレンス時間の測定 表面近傍にNVセンターを形成し、その状態を評価するため、不純物窒素濃度のきわめて低い(<1ppb)12C濃縮CVDダイヤモンド層に、15N+イオンを10keV以下の低エネルギーで注入し、CFM測定及びODMR測定を行った。加速エネルギーの異なる3条件(3, 6.5, 10keV:SRIMによる15N+の注入深さのシミュレーションで約5, 10, 15nmに相当)でのHahn echo測定の結果を比較すると、コヒーレンス時間(T2)の値は数十μsecから数百μsecに分布しているが、エネルギーが小さくなるほど低下する傾向が得られ、10keV以下の低エネルギーイオン注入によりNVセンターを形成した他のグループからの報告例と同程度またはより良い結果が得られた。T2の値にはばらつきが見られるのは、同じエネルギーでも窒素イオンの注入深さに広がりがあるためと考えられ、深さ方向の分布はSRIMによるシミュレーション結果からも確認される。 2.浅いNVセンターの電荷状態の安定化 浅いNVセンターは電荷状態が不安定であり、外部の影響から保護し安定させる必要がある。酸素終端でNV-となる浅いNVセンターを有する基板を水素終端し、NVセンターの電荷状態を下向きにバンド湾曲させ、その電子状態の制御性を検討した。具体的には、ショットキーダイオードに逆バイアスを印加し、バンドを下向きに湾曲させ、NV-の安定領域にフェルミ準位が位置するようにして水素終端表面でもNV-が安定に形成した。高純度な結晶(低窒素濃度の12C濃縮ホモエピタキシャル層)で実験を行い、表面付近のNVセンターの電荷状態の安定性が向上するか、NV0とNV-の制御が可能であるかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面または表面近傍の不対電子の電子スピン群が、コヒーレンス時間減少の要因であり、これらのフリップフロップ・ノイズが、電子スピン・核スピン・相互作用の観測の上で、大きな障害となる。まず水素終端構造を作製し、その後、オゾン処理で一部を酸素終端し、表面のポテンシャルを低下させ、やや下向きにバンド湾曲する表面状態を形成した。この表面で、浅いNVセンターの明確なラビ振動が再現性良く得られる条件を見出した。通常の酸素終端構造は、特にプラズマや高温で形成されたダイヤモンド表面は、表面バンドギャップ中に不対電子と関係する深い準位が形成される。水素終端構造は、被覆率、表面欠陥の少なさから最適構造であるが、負電荷の吸着物が付きやすく、表面ポテンシャルが上昇して、NV-が安定条件から外れる。水素終端後のソフトな部分酸化が浅いNV-センターに有利であることを見出した。これは、電子デバイスにおいてキャリア制御が可能な酸素被覆量であり、今後の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1.生体分子固定のためのダイヤモンド表面のアミノ終端化およびカルボキシル終端化による核酸の固定 部分的なアミノ終端構造を基本にしたDNAおよびRNA固定技術を検討する。この終端は従来のカルボキシル終端と比べ、高い表面被覆率が可能で、固定するDNA/RNAの密度が上昇する。水素終端ダイヤモンド表面からスタートしてその一部がアミノ終端となる構造である。ただし、水素終端を基礎する場合と、酸素終端あるいはフッ素終端を基礎とする場合には、アミノ化プロセスに違いがあり、どちらがダイヤモンド表面近傍のNV-の安定化に適しているかを検討する。蛍光マーカーを付けたDNA/RNAで位置や密度測定し、NV-の蛍光との相対位置関係あきらかにし、DNA/RNAの31Pの核スピンの検出を行っていく。 2.N-V軸が面に垂直なN-Vセンターによる高感度NMR測定 (111)面に成長したダイヤモンドでは、N-V軸が面に垂直なN-Vセンターが、他の3方向のN-Vセンターと比べ、支配的であるとされる。この方向は表面の核スピンとの相互作用も大きく、局所NMR観測に最適である。ただし、(111)面の成長は不純物が(001)面の成長に比べ、1-2桁、取り込まれやすい。従って、単一NVを所望の深さに得る基板作製には、これまでよりも、高真空、高純度環境、高重度ガスの利用が必要となる。このような問題点をクリアし、(111)面での浅いN-Vセンターの形成を行う。
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