研究課題
1)負に帯電した窒素空孔(NV-)の安定性をラビ振動の蛍光強度の振動コントラストで評価:ダイヤモンド表面の吸着電荷の影響で、浅いNV センターはNV-とNV0の間で不安定となる。ラビ振動の蛍光強度で、振動成分(スピン関与成分)はNV-由来で、NV0由来は振動に寄与しない。NV-の電荷安定性をラビ振動の蛍光強度の振動コントラストC = 2A/y0から評価できることを見出した。Aはラビ振動の振幅、y0はms=0 とms=1 蛍光の平均値である。2)フェルミ準位のピニングによるNV-の安定性とコヒーレンス時間:上記のラビ振動コントラストを考慮すると、酸素アニールがNV-の優れた安定性を示すことがわかった。高密度の酸素終端、特にC=O結合のπ反結合軌道(π*軌道)が、表面バンドギャップ中央付近(~2.8 eV)にてフェルミ準位のピンニングをもたらし、吸着イオンや電界の影響を受けにくい表面となったと考えられる。ハーン・エコー法によるコヒーレンス時間T2は約100μsecが得られており、深さ3nm以下としては世界的に見て非常に高い値である。3)窒化表面による新たなNV-の電荷安定化:窒素/水素(4%)ラジカル照射後のラビ振動コントラストの平均値は高く、1keVイオン注入領域においては0.40、2keVイオン注入領域では0.46と極めて安定した結果であった。窒素ラジカル照射後の試料は、酸素アニール後と同様にハーン・エコー測定ではラビ振動のゼロレベルに収斂し、NVーの電荷状態は非常に安定している。ラビ振動測定とハーン・エコー測定結果から、窒素/水素ラジカル照射が浅いNVーの電荷状態安定化に寄与することが初めて明らかにされた。4)DNA固定表面でのNV-の安定化:DNA固定後の表面でもとの酸化表面あるいはラジカル窒化表面と同様な高いコントラストのラビ振動が観測された。
2: おおむね順調に進展している
1)高耐圧FETによるNV-の電荷安定化のためのフェルミ準位の制御:表面からキャリア(正孔)を追い出し、空乏化するとポテンシャルは下向きに湾曲し、さらに高い電界ではフェルミ準位が真性フェルミ準位(ギャップ中央)を逆転し高くなり、すなわち反転層がゲート電極近傍に出現する。この反転層ではNV-状態がNV0状態比べ安定であり、かつ反転層は表面側に形成されるので、表面近傍のNV-の形成に重要なデバイス技術である。実現するには高電圧(500V以上)高電界(1MV/cm)下で動作するプレーナー型電界効果トランジスタ(FET)が必要で、それを表面スピンの極めて少ない水素終端ダイヤモンド表面を利用して作製することが可能となった。2)NV-がDNA固定表面でも安定:酸化表面あるいはラジカル窒化表面へのDNAの固定後、新たな吸着電荷による不安定化が懸念であった。しかし、固定後の表面でもNV-は安定酸化表面あるいはラジカル窒化表面と同様な高いコントラストのラビ振動が観測された。表面近傍のNVーの電荷安定化が可能な終端構造にDNAが共有結合にて安定固定できることは、繰り返し測定を可能とし、生体分子の動的挙動、再現性の確認等に極めて有利である。ダイヤモンド表面に核酸を共有結合した状態で、表面近傍のNV-の安定化が実現したのでので、ダイヤモンド上のDNAのリン原子(31P)の局所NMR観測が行える表面修飾技術が出来上がった。
1.浅いNVセンターの存在するダイヤモンド(111)表面での電界効果トランジスタ(FET)の形成:浅いNVセンターの領域に表面チャネル型のFETを形成し、オフ状態の高電界下で空乏層を伸長させることで、電気的にNV-の安定領域を制御する。FETのドリフト層には(111)面とし、N-V軸が面に垂直なN-Vセンターで支配的となる条件下で観測を行う。この層はは表面の核スピンとの相互作用も大きく、局所NMRに最適であるが、(111)面の成長では、(001)面の成長に比べ不純物が1-2桁も混入しやすい。単一NVを浅く形成するための基板作成には、より高真空、より高清浄度環境、より高純度ガスの使用が必要となる。このような問題点をクリアし、(111)面での浅いN-Vセンターが存在する表面チャネル型FETの形成を行う。2.ダイヤモンド中のリン原子(31P)および表面に固定した31Pを含む生体分子のNMR信号の観測:ダイヤモンド中の4面体配位した31P、固定したアデノシン三リン酸(ATP)または核酸(DNAまたはRNA)の31Pの核スピンのNMR周波数を検出、さらにその位置を検出する。前者は高濃度で結晶成長中にドーピングする。後者は、共有結合でダイヤモンド表面に高密度で固定する。NV-の電子スピンをMS=0とMS=-1の状態で量子コヒーレンス状態にしておき、ターゲット原子の核スピンのラビ振動がもたらす電子スピンのコヒーレンス状態の位相変化を観測するのが、NVセンター利用した局所核磁気共鳴の基本方針となる。
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