研究課題/領域番号 |
26220910
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡部 徹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00280884)
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研究分担者 |
森田 一樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00210170)
八木 俊介 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (60452273)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 貴金属 / リサイクル / 活性金属 / 溶融亜鉛 / レニウム |
研究実績の概要 |
我が国は、金属資源のほぼ全量を輸入し、高い付加価値のハイテク製品を製造して輸出することによって、豊かな生活を維持している。このため、環境保全と資源戦略の両方の観点から、環境に調和しつつレアメタルを効率良くリサイクルする新技術の開発が極めて重要な課題となっている。本研究では、貴金属と活性金属を含む複合塩化物の合成法と物性の科学的な解明に基づき、有害な廃液を出すことなくスクラップから白金やロジウムを始めとする貴金属を高い効率で抽出する環境調和型の新しいリサイクル技術の開発を行う。また、開発した「有害な廃液が出ない新しいリサイクル手法」を、レニウムやレアアースといった産業上重要な他のレアメタルのリサイクル技術へと応用し、その有効性を実証する。 昨年度までの研究により、活性金属蒸気を用いた合金化処理後に適切な条件で塩化処理を行うことで、スクラップ中の白金やロジウム、イリジウムなどの白金族金属の酸溶解性を向上できることを明らかにした。また、活性金属との合金化を利用すれば、廃液を出すことなくニッケル基超合金からレニウムを効率良く分離濃縮するプロセスを確立できることを見出した。平成28年度は、昨年度まで行ってきた合金化・塩化処理によりルテニウムを回収するプロセスについて調査するとともに、溶融亜鉛を抽出媒体(コレクターメタル)として用いる、レニウムの新しいリサイクル技術の開発を進めた。特に実操業プロセスを想定し、反応容器の形状をるつぼ型、サイフォン型などと変更することで、反応の高効率化および収率の向上を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに、スクラップ中の白金族金属の酸溶解性向上のため、白金族金属と活性金属との合金化および塩化処理技術を開発し、本技術を用いることで白金やロジウム、イリジウムなどの白金族金属の酸溶解性が向上することが実験的に実証された。また、活性金属を用いたレニウムの新しい環境調和型リサイクルプロセスの可能性を検討した。本年度は、昨年度まで行ってきた合金化・塩化処理の有用性をルテニウムについて調査した。その結果、マグネシウム蒸気を用いた合金化処理後に、適切な条件で塩化銅を用いた塩化処理を行えば、ルテニウムについても酸溶解性を向上できることを明らかにした。また、処理条件によっては、酸化剤を含まない塩化ナトリウム水溶液を用いても溶解できることを発見し、開発した新手法が白金に限らず、多くの白金族金属に対して有用であることを実証した。さらに、溶融亜鉛などの活性金属を内部で還流させる装置および反応系を自作し、活性金属を用いたレニウムのリサイクル手法が実プロセスにおいて実現可能であることを明らかにするとともに、反応の高効率化および収率の向上を行った。 なお、本研究は国内外で高く評価されており、現在までに研究代表者の岡部 徹は以下の賞を受賞した。 第62回 日本金属学会論文賞 (2014年9月24日),第40回 資源・素材学会論文賞 (2015年3月28日),平成27年度 日本希土類学会技術賞(藤森賞) (2015年5月21日),第13回 本多フロンティア賞(平成28年度)(本多記念会) (2016年5月27日),第86回 報公賞(服部報公会) (2016年10月7日),平成28年度 溶融塩賞 (電気化学会 溶融塩委員会) (2017年1月27日)。 上記の受賞を含め、目標をはるかに超える研究の進展があった。基礎研究だけでなく、関連の産学連携研究も順調に進んでおり、今後も予定以上の成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した新技術を用いた際に生成する貴金属化合物の化学状態、および貴金属から化合物への反応過程を解明するために、以下の研究を新たに展開する予定である。 ①XPSによる化学状態の分析:XPSによって、内殻準位ピークおよびオージェ電子ピークの化学シフトから塩化処理等をした後の貴金属の化学状態を分析する。XPS装置は東京大学生産技術研究所内に常設されている装置を使用する予定である。 ②示差熱重量同時分析による反応過程の解析:示差熱重量同時分析装置を用いて、活性金属‐貴金属合金の塩化、及び酸化反応の過程を解析し、反応挙動を解明する。雰囲気が制御できるように適宜ガスラインを組む。 ③熱力学パラメータの評価:合金化処理した貴金属やそれらの塩化物及び酸化物について、蒸気圧の温度依存性や平衡する相などを実験的に調査し、熱力学的パラメータを評価する。また、活性金属‐貴金属の多元系合金の物性についても熱力学計算等を用いて検討し、得られた知見を、より効率的な合金化・塩化処理プロセスの条件設計にフィードバックする。 また、活性金属を抽出媒体(コレクターメタル)として用いるプロセスをさらに発展させ、亜鉛以外の溶融金属をコレクターメタルとして用いる高温乾式手法について検討を進め、廃液フリーかつ省エネルギーな環境調和型リサイクルプロセスの開発を目指す。さらに、電気化学的手法を用いた低エネルギー消費リサイクルプロセスについても検討を行う予定である。
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