研究課題
新型高速2光子顕微鏡を導入し、覚醒動物における大脳皮質錐体細胞のスパインの自然刺激に伴う運動を捉えることを試みた。スパイン増大は記憶の生成に必須であることがわかっているので、この増大は学習という認知過程のイメージングとなる。視覚野の観察を行い、様々の視覚刺激を与えてたところ、可塑性が出る条件が徐々にわかってきているが、新型顕微鏡の導入により、増大がより明瞭に見え、また、カルシウムシグナルや他の分子イメージングと同時に行えることが期待された。そこで、同時に取得したカルシウムイメメージングをスパインと樹状突起で解析したところ、シナプス前入力と後入力が同期してはいる、ヘブ入力が検出され、これが大きく立ち上がったところで、スパイン増大が起きやすいことがわかってきた。また、様々の可塑性の阻害剤を腹腔投与したところ、ヘブ入力は可塑性の阻害される処置では減弱し、特に、ヘブ入力の立ち上がり(build up)と増大に関係があることが示唆された。ただし、このヘブ項の近似的な計算は、係数項の設定に依存するので、理想的ではないことがわかってきた。そこで、シナプス前細胞にシナプス前終末のマーカー蛋白とカルシウム指示蛋白を発現させ、シナプスの前部と後部の両方から独立にカルシウム応答を取りヘブ項を推定することで、この問題は決着するとの見通しとなった。この場合、1次視覚野の2つの領域を標識すると、受容野の異なる細胞の覚醒時の結合を見ることになり、それ自身新しい。そこで、それを可能とするAAVコンストラクトの作成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
スパイン頭部増大現象は我々が2004年に見つけた後、多くの研究室で再現されており、シナプスの長期増強の基礎過程と考えられるようになっている。そこで、スパイン頭部増大や長期増強が起きる速さは脳機能に大きな影響を与えると考えられる。従って、その正確な測定が望まれるが、この測定は困難なので、どの研究室もまだ調査していない。我々は、成熟動物の大脳新皮質において、スパイン増大を確実に誘発、観察することに成功しており、現在定量化作業に進んでいるので、研究計画は順調に進行していると言える。
このスパイン増大とカルシウムシグナルの関係をより定量的に調べ、大きさの相関関係、カルシウムシグナルからの遅延などを明らかにする。また、スパイン増大が神経回路活動に及ぼす効果について薬理学的にまた光遺伝学的に検証していく。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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巻: 525 ページ: 333-338
10.1038/nature15257
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10.1038/ncomms9531
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10.1039/C5CC07664A
http://www.bm2.m.u-tokyo.ac.jp