研究課題
一次視覚野損傷を施した盲視モデルのマカクザルの認知機能として、視覚的手がかりによる古典的条件付け学習が可能であることがわかった。そしてその際に中脳ドーパミン細胞が手がかり刺激による報酬かつ予測に関わる活動を示していること、さらに上丘をムシモルによって可逆的に抑制すると古典的条件付けが遂行不能になり、さらにドーパミン細胞の報酬価値を符合した手がかり刺激に対する応答も消失した。このようにして、上丘を介して伝えられる報酬価値情報が、一次視覚野損傷後においても古典的条件付けの成立に寄与していることが示唆された。また、一次視覚野損傷後に視覚的刺激の存在を回答するYes-No課題におけるサルの行動を信号検出理論を用いて解析することで、一次視覚野損傷後の視覚的意識が低下していること、つまりこれらの動物がヒトの盲視に近いことが明らかになった。さらに盲視を仲介する経路として、視床レベルにおいて外側膝状体が重要か、それとも視床枕が重要かという論争があるが、我々は盲視モデルサルにおいて、視床枕へのムシモル注入が視覚誘導性サッケードの遂行を阻害すること、さらにウィルスベクター2重感染法を用い、上丘―視床枕経路の遮断がサッケードの成功率の低下と反応潜時の遅延を引き起こすことを示し、上丘―視床枕―高次視覚野と言う経路が重要であることは明確になった。一方で、このような盲視における意識の状態を解析するために全脳ECoG技術の開発を進めているが、こちらは手術後の脳浮腫が重篤であることから手術を中止し、技術的改良を試みている。一方で、運動関連領域に部分的に留置したより少ない電極(30チャネル)を用いて次元圧縮とGranger causality解析によってデータ駆動的に主要なネットワークを抽出する統計手法の開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
盲視サルの認知機能(学習、視覚的意識)及び、視覚伝達経路の解明については大きな進展があった。平成27年度に全脳ECoGの手術を試みたが、術後の脳浮腫のため、実験を中止せざるを得なくなった。全脳ECoG技術の開発にはもうしばらく時間を要すると判断し、部分的な電極から得られる先端的データ解析法の開発に目標を移し、ネットワーク解析の統計手法については大変重要な成果を得ることができた。
今後、いきなり全脳200チャンネルの記録ではなく、チャネル数を次第に増加させ、前頭葉と頭頂連合野を含む脳のより広い範囲からのECoG記録を可能にし、今回開発された次元圧縮法による重要回路の抽出とその動的変化の解析に邁進すれば、大変挑戦的だった当初目標が達成できると考えている。そのための認知課題を遂行するサルの訓練は順調に進行している。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 9件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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