本研究課題では、一次視覚野損傷後に、視覚的意識は消失するが、盲視野に提示された標的に対する行動を強制されると遂行可能であるという「盲視」と呼ばれる現象において生じる「部分的意識」の神経機構を明らかにすることを目的としている。平成30年度の研究では、従来のサッケード課題ではなく、手がかり刺激が盲視野の上部に提示された場合にはレバーを押す、下部に提示された場合にはレバーを引くという条件付け課題の遂行が強制選択条件で可能か試したところ、損傷後50日を過ぎた時点で成功率が70%前後と、確率水準を超える成功率で遂行可能であることが明らかになった。そして、その際の成功試行(Hit)と失敗試行(Miss)の間の前頭前野―前頭眼野―運動前野―一次運動野に慢性留置した多チャネルの皮質脳波電極による脳活動を比較したところ、運動前野領域においてHit試行では手がかり刺激提示直後の視覚応答が高いこと、手がかり刺激提示後Go信号提示前のα-β帯域の活動がMiss試行に比して高まっていること、一方でGo刺激提示後のこの帯域の活動は逆にMiss時に特に高まっていることが明らかになった。前2者の活動成分については健常側での閾値付近の刺激に対するHit-Miss試行差と共通であり、一次視覚野損傷後の手がかり刺激に対する条件付け応答の意思決定は、損傷前と共通の過程で処理されている可能性が示唆されたが、Miss時にGo刺激後の低周波成分が特に高まっていることが盲視に特有の現象であることが明らかになった。
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